『女性ライフサイクル研究』第16号(2006年)掲載

レジリエンスに着目した子どもへの支援

女性ライフサイクル研究所 小田裕子

1.はじめに

虐待、DV、いじめ等の人為的なトラウマは単独でやってくることはほとんどなく、雪崩のように押し寄せ、その後々まで影響をもたらす。そして再び人と繋がること、安心できる暮らしをおくることをなかなか許してはくれない。しかし、そうした渦中にあっても子ども達はいつもトラウマ症状に悩まされて、いつも支援を必要としている訳ではない。

福祉施設での臨床活動を通して、筆者は今まで知りえた世界が全てではないことを子ども達に体当たりで教えられた。彼らはプレイセラピーの中で、行き場のない悲しみや怒りを吐き出してきた。それは、筆者に向けたものでも、親に向けたものでもなく、もっともっと大きなものへの怒りであり、深く切ない悲しみであるように感じた。新米カウンセラーであった筆者は、圧倒されるような表現とエネルギーを前に彼らの世界についていけず、関係の持てないしんどさを感じ、焦った。そこには「心理の専門家」として関わっている以上、子どの役に立たなければ、心の援助をしなければという奢った焦りと、社会の風潮にあおられた押し付けがましい心のケア旋風の影響があったように思う。その後、「ないよりはましな援助を(better than nothing)」という謙虚であることを教えられ、「もうセラピーをするのはやめた!」と思えたことと、レジリエンスという概念と出会えたことが筆者の支援スタイルの転機となった。

本稿では、逆境にあっても損傷を受けずにいるその人の「基本的な強さ」又、「逆境を跳ね返すべく引き出された力」をレジリエンスと定義し、子どもが持っている力(レジリエンス)に着目した身近な支援のあり方を考えてみたい。

2.なずなちゃんの事例

※以下の事例は特定される個人の体験ではなく、様々な事例の複合である。

なずなちゃんは、小学五年生の女の子。現在は、母親とキョウダイと福祉施設で暮らしている。母親は男性関係が激しく、繰り返しDV被害に遭い、なずなちゃんは幼少期からその影響に曝され、施設や学校を転々としてきた。なずなちゃんが小学生低学年の頃、母親は男性と暮らすため、施設を出た。そこから、五年生になるまでの間、内縁関係にある男性に異様な暴力を受けつづけることとなる。暴力はある日、突然はじまり、なずなちゃんだけに向かった。彼女は、他の家族から引き離され、口をきくことも、目をあわすことも許されず、名前で呼ばれることもなくなった。そして、食事、睡眠、外出など全ての生活範囲に渡って極度に制限されていった。また、直接的な暴力は、なずなちゃんだけではなく、母親やペットにも向かい、部屋の壁が血に染まることもよくあった。学校の先生が異変に気付き、心配してくれたが、男性にも母親にも強く口止めをされていたため、誰にも言えなかった。初めのうちはもう死にたいと思って泣いたりもしたが、その内涙も出なくなり、自らそのスペースに閉じこもり、じっと耐えるようになっていった。

なずなちゃんと筆者の出会いは、彼女が施設内セラピーを自ら希望し、学校でいじめを受けていることを誰にも話せない苦しみを主訴としてスタートした。週に一度、筆者といじめへの作戦会議を持つ中で、彼女は実に前向きに、勇気をもって学校の先生へ訴えや友達とのやり取りを工夫し、いじめはみるみる解消されていった。またそれに伴い、苦手だった水泳大会も休まず、諦めず最後まで泳ぎきることができたり、施設でのイベントではダンスチームを結成し、ダンスの振り付けを考案して低学年に教えたり、意欲的に活動に取り組む経験を重ね、感情表現などいくつかの課題は残るものの、自分への自信と周囲からの信頼を得て、見事に成長を遂げていった。

3.なずなちゃんのレジリエンス

上述したような被害体験を受けてきたなずなちゃんが、人間性を失ってしまわずに、筆者とつながり、友達関係、学校、その他の活動で驚くほどの成長をみせたのはなぜだろうか。何が彼女のレジリエンスとなり、何がその力を引き出すのに役立ったのだろうか。彼女のレジリエンスに着目する視点で、彼女の体験を改めてインタビューした。

(1)本人自身の工夫

@家を離れる:タイミングを見計らって家出、公園、友達の家、など呼吸ができる場所へ脱出する。A話す: 具体的なことは話せないけれど、「今家でいろいろしんどいことがある」等、漠然とした形で友達や距離のある人に吐き出す。Bメモやアイコンタクト:声を出すと怒鳴られ、状況がひどくなるから、声を出さずに家族とコミュニケーションをとれる方法を考えた。C戦略:暴力がはじまったら、「なんで手じゃなく、そのパイプでたたくん?」等、細かいことや関係ないことを聞きつづける。そうすると、一瞬暴力が止まったり、少なくなったりすることがある。D隠れる:大人は誰も入れない、見つけられないような自分だけの隠れ場をもつ。E音楽を大きな音で聞く:誰も居ないときにボリューム全開にするのが最高の発散になる。F本を沢山読む:感動できる本を沢山読んで泣いたり、笑ったりする。主人公と自分を重ね合わせて、違う世界に行くことで現実を忘れる。G紙をビリビリにしたり、物を捨てること:特に加害者が大事にしているものを捨てたり、書類を破くのが効果的。怖い気持ちもあるけど、悲しみや怒りもある。やられっぱなしじゃなくて自分も仕返しをしてやるんだという気持ち。H小さな発見、気付きを力にする:道端に咲いている野花をみつけて、勇気をもらった。毎朝それを見て、これが咲いている間は自分も頑張って生きようと思った。植物や動物から力をもらっていた。I逆立ちをする:モヤモヤしていたことがすっきりする。Jいい匂いのするお菓子を嗅ぐ:一瞬、幸せな気分になる。

無意識であれ、逆境の最中にこれだけの工夫ができたのは、彼女の自分なりの戦略や対処法を考える力。少しのヒントやプラスの関わりを生きる糧にできる閃き。希望を捨てない粘り強さ、諦めない力。応援したくなる直向さと素直さ。どんなに辛くとも死んだからアカンと思えたり、マイナスな行為を断ち切る意志の強さ等、彼女が持っている基本的な強さ(気質や考え方)が彼女自身のレジリエンスとなっている。

(2)役立ったサポート

@学校の先生: 口止めされていたし、家で起こっていることは何もいえなかったけれど、担任の先生が「あなたのことを心配している。何かできることがあったら言って」といつも声を掛けてくれ、学年がかわってもずっと気にかけてくれていたこと。Aクラスの友達:学校に行くと、クラスの友達が心配していつも声を掛けてくれたり、心配してくれたこと。B友達のお母さん:「あなたは悪くない」といってくれたり、かくまってくれたり、おやつをくれたりしたこと。C公園で出会ったおばあさん:顔見知りになる内にお菓子をくれたりして、家に遊びにいったり、食事させてくれたりするようになったこと。D保健室:書き込みノート、人形遊び、悪戯など、家に帰りたくない気持ちや溜まったストレスを少しでも吐き出せたこと。Eクラブ活動:通常の関係(クラスや学年)を超えた関係が持てること。何も考えず夢中になれる活動があること。F親族とのかかわり:遠方に離れている親族との交流。夏祭り、キャンプ、プレゼントなど日常から脱して、肯定的な関わりや楽しい時間がもてること。Gセラピストや施設職員:話を真剣に受け止め一緒に考えてくれる存在。問題解決に向けてともに試行錯誤できること。一緒に考えてもらえると頑張れるし、勇気がでてくる。H家族とのつながり:サポ−トは得られなかったが、隙を見て様子を見に来てくれたり、アイコンタクトなどがあったから、少しは心配してくれていると思った。

本ケースにおいては、本人自身のレジリエンスはもちろん、それを引き出すコミュニティの支えがとても大きな役割を果たしている。家庭の中で人間性を失う扱いをされても、生きることが出来たのは、教師や近隣の大人たちの「あなたは悪くない、私はあなたのことが好きだし、心配している」というメッセージや、保健室、友人の母親など近隣の人が彼女のことを気に掛け、家庭以外の行き場を提供してくれたからである。他にも、学級の友達が声を掛けてくれることで、自己肯定感を育んでいたようだ。被虐待児は学校でもいじめの対象や加害的立場になりやすく、被害を重ねてしまう怖れがあるが、この学級・地域では、彼女のレジリエンスをサポートし活性化する方向に役立っている。この背景には、子どものモデルとなる教師や地域の大人たちの姿勢が大きな役割を果たしていると考えられる。また、大きなマイナスの中の微々たる繋がりではあるが、他の家族成員との関係が完全に途絶えてしまわなかったことも、彼女がその他の愛着関係を結んでいく力に役に立っているように思う。こうしたサポートによって彼女の基本的な強さのレジリエンスは育まれ、より一層引き出されるという相乗効果が期待できる。

(3)インタビューを終えての感想

一連の話を終えて、感想をきいてみたところ「こんな風に話したのははじめて。何かスッキリした。自分ってこんな頑張ってたんや!と思った。考えたことなかったから、聞かれるまでわからなかったけど、やられるばっかりやなくて色々自分も工夫してたんや!こんな頑張ってたんやな〜」と話してくれた。

4. 子どものレジリエンスとそれを引き出す支援

(1)子どものレジリエンスの考察

子どもたちのレジリエンスをダニエルとワッセル(Daniel&Wassell,二〇〇二)の三つの生態学的なレベルを基準に整理し、レジリエンスの維持、発揮に役立つサポートについてまとめたい。

@ 子ども自身の要因(性質、気質など)

本来的に持っているその子自身の気質、物事の感じ方・考え方、能力などの基本的な強さがレジリエンスとその支援に影響を与える。例えば、ストレス対処や生き延びる戦略等の考える力に長けていれば、そこに着目し、それが強みとなることを確認して、共に考えながら試行錯誤することが役立つだろうし、愛嬌があり、ほっとけない気質を持ち合わせている場合は、人との愛着関係を強みとした支援が有効だろう。その他、過酷な環境を紛らわす想像力、創作活動、スポーツ表現等の身体能力、動物や自然から力をもらう感性など、人それぞれに強みとなるレジリエンスは異なる。そうしたレジリエンスは大抵の場合無自覚に活用されているが、その力に着目し、自らの力や工夫に気付くことによって、無力感や自己評価が高まり、更なる成長へと繋がる。よって、それらを感知し、引き出すことができる周囲の大人の豊かさと柔軟性も重要となる。

A 家族の支え(家庭の温かさ、サポート、秩序)

学校での虐めや事件、被害に遭うことで、本人はもちろん家族も大きなダメージを受ける。しかし、そうした場合に家族成員が子どもの傷付きを受け止め、本人を問題解決の主体としつつ、適切に環境に働きかけることができれば、子どものレジリエンスは発揮され、驚くほどの回復や成長がみられる。また、家族の適切なサポートや介入があれば、二次的・三次的被害を防ぐこともできる。一方、被害が家庭の中で起こる場合は、家族から適切なサポートが得にくいばかり、更なる傷付きを深めることは否めない。しかし、例え断続的・部分的であったとしても、何がしかの家族成員との関係が途絶えてしまわないよう、家族との繋がりを維持していく工夫が、子どものレジリエンスを守ることとなる。

B コミュニティの支え(教師、友人、地域の大人)

内なる暴力によって家族が機能を失い、子どものレジリエンスを守ったり、引き出したりできない状況下において役立つサポートは、コミュニティの支えである。それは専門的な特別な援助ではなく、子どもを取り巻く大人・仲間のあたたかな関心である。根本的な解決には繋がらなくても、声を掛け、真剣に話を聴き、味方でいてくれる存在が、子どもの本来持っている基本的な強さのサポートとなる。そうしたセーフティネットの網の目が地域に広がり、危機にある子どもがどこかでサポートされていくために必要なことは、地域の大人として社会の子どもを守り、育てていく意識と、暴力に関する意識啓発や予防教育を浸透させていくことであるように思う。

以上の三つのレベルが相互に影響をし合うことで、基本的強さのレジリエンスが育まれたり、補強されたり、引き出されていくことが期待される。

(2)レジリエンスに着目した支援とは

第一に、人には個々に持っている強さがあり、その力は、その人自身の特性や工夫,家族の支え、コミュニティの支えによって、守られたり、引き出されたりするということ、第二に、その無意識的に発揮している力を意識化することで、今後の危機をやり過ごす自己資源となる支援のあり方である。なずなちゃんのケースからもわかるように、最も支えとなったものは、「あなたは心配にあたいする大事な存在であること」「あなたは悪くない」というメッセージであった。足りないところ、危いところを指摘するのではなく、今まで活用してきた力に着目し、「しんどい時はどうやってしのいできたの?」「どんな工夫をしていたの?」「役立ったことは?」「へぇ〜そんなことをしていたんだね」と子どもの体験にしっかりと耳を傾け、子どもの持っている力を見出だすことである。つまり、専門家でなくとも、その人へのあたたかな思いやりをもつ身近な存在になることで、最も必要な支援ができるのである。

一方、専門家としての役割を考えるにあたっても、子ども達の声が役に立つ。「DVを内輪もめとして扱わず、警察にしっかり動いて欲しかった。」「家に帰らなくてすむ場所、逃げれる場所があると知ってたら逃げたかった!」「きちんと情報がほしかった」等。近年、法的整備も整い社会制度は着実に改善しているが、末端の現場においては未だ個人の力量に拠る所が大きい。専門家が果たす責務としては、支援を必要としている人に情報が届くよう、第一コンタクトをもつ対人援助者や地域の人々への意識啓発を積極的に進めること、コミュニティの支えを強化する暴力防止の予防教育を地域(学校)を巻き込みながら考えていくこと、大人への働きかけも大事であるが、子どもが直接的に情報や知識を得る機会をつくっていくことが重要であると筆者は考えている。

5. おわりに 子ども達からのメッセージ

子どもへのインタビューを通して、どんなに辛くても人とのつながりを絶やしてしまわないことが逆境を生き抜く命綱となること、それを通じて、レジリエントとして生き抜くことができるという人間の力強さを学んだ気がした。逆境の最中にある子ども達に私たちができることがある。彼らの話にしっかりと耳を傾け、彼らの思いを尊重し、あたたかい気持ちで肯定的なメッセージを繰り返しおくり続けること。それが今すぐ実を結ばなくとも、今後の彼らの人生の明かりとなることを信じて・・・。
 最後に、同じような状況を経験した子どもから、今も逆境の最中にいる子どもたちへのメッセージを紹介して、結びにかえたい。

 

「自分の周りに必ず助けてくれる人はいるから、今はつらいだろうけど、自分を傷つけたりしないで。心を閉じてしまって自分の殻にこもってしまったらどうしようもない。いいことはないから。心を閉ざさないで。周りに助けてくれる人は必ず居るから少しずつでも開いて、話をしていって欲しい」「今は辛くても生きていたら、楽になること、楽しいことも必ずあるから信じて諦めないで」

貴重な体験を語り、筆者とつながろうとしてくれた子ども達に敬意と感謝を捧げます。

文献

Daniel.B&Wassell (2002) Adolescence. Assessing and Promoting Resilience in Vulnerable Children 3 Jessica Kingsley Publishers Ltd.