今月のトピック by 村本邦子

2014年2月 「からのゆりかご」と児童移民

イギリスの児童福祉、とくに児童移民についての調査でイギリスに来ている。映画「オレンジと太陽」、本『からのゆりかご~大英帝国の迷い子たち』(日本図書刊行会)の話だ。イギリスで、子ども移民は17世紀以来周期的に行われてきた。1900年から30年代までは、カナダへ、第二次世界大戦後は、オーストラリア、ローデシア(ジンバブエ)、ニュージーランドなどの植民地へ、施設の子どもたちを送っていたのである。時代や受け入れ先によって違いはあるものの、子どもや親の同意なく、だますような形で子どもたちを移民させ、その多くが強制労働や虐待、性的虐待の対象となった。イギリス政府主導で、名高い慈善団体や教会がこれを行ってきたため、1970年を最後に、その歴史は闇に葬られた。ショキングな事実ではあるが、手厚い児童福祉で知られるイギリスの影と言える。

養子に出された子どものルーツ探しに関わっていたソーシャルワーカーのマーガレット・ハンフリーズさんが、1986年、オーストラリアの女性から受け取った1通の手紙をきっかけに、この政策について知るようになり、身を危険に晒しながら事実を明るみに出した。児童移民の数は13万人を上回ると推計され、あまりに遅すぎると言えるが、2009年にオーストラリア政府が、2010年にイギリス政府が事実を認め、正式謝罪をしている。マーガレットさんは1987年、元児童移民たちの家族探しの援助をするために「児童移民トラスト」を立ち上げ、オーストラリアとイギリスを往復しながら、今なお活動を続けている。

ノッティンガムにある「児童移民トラスト」のオフィスを訪ねた。引っ越したばかりという閑静な住宅街の一軒家で、小さいけれど美しい庭とサンルームがあり、室内には無数にと言いたくなるほどたくさんの元児童移民と家族の再会の写真が飾ってある。一枚一枚にドラマがあり、長かったであろう道のりにほんの少し思いを馳せるだけで胸が熱くなる。映画のなかでも、元児童移民であるクライエントに家族の事実を伝える部屋はどうあるべきかと、窓から見える風景や家具の配置、花の飾り方まで心を尽くしてチェックするマーガレットさんの姿が出てくるが、家庭的で暖かな雰囲気のなかで支援はなされるべきだという信念がいたるところに感じられる。ノッティンガムのオフィスは、マーガレットさんと、元ソ-シャルワーカーで今はマネージャーを務めるパートナー、2人のソーシャルワーカー、事務職員の5人でやっておられるが、その仕事たるやほとんど奇跡のように思える。

バナードスというエリザベス・サンダーホームのモデルともなったイギリスのもっとも古く大きな慈善児童支援機関で(つまりは、児童移民にも関わっていたということになる)、これまで保護してきた子どもの情報開示サービスを行っている「メイキング・コネクション」のソーシャルワーカーたちの話も聞いたが、一人ひとりの出自を知る権利やその伝え方をどれほど大切にし、時間とエネルギーを注いでいるかには想像を絶するものがあった。児童移民のような闇があった一方で、一個の人間として子どもを尊重しようとする伝統が着実に根付いてきたことをも表している。ワーカーたちのプロ意識や社会正義感は新鮮で感動的でもあった。是非、DVDと本を観てほしい。