今月のトピック by 村本邦子

2013年5月 「ドラムカフェ」とコミュニティの心理社会的支援

今月、学会があって、山形大学の上山真知子先生による「大震災における心理社会的支援について〜東日本大震災での支援者の経験の交流から考える」に参加したが、途中、ちょっとしたサプライズで、昨年から話に聞いていた「ドラムカフェ」を体験させてもらった。映像で見て興味を持っていたが、実際にやってみる体験は、想像をはるかに超えるおもしろさだった。一流のアーティストたちによる太鼓のリズムにリードされながら、参加者それぞれがひとつずつ太鼓を持って叩き、全員が一体となってドラミングを楽しむのだ。

「ドラムカフェ」は、アパルトヘイト政策で絶望に陥っていた南アフリカ共和国で誕生した。当時、南アフリカでは、各企業が人種の違う人々を平等に雇用し始めたものの、共に働ける職場作りや社員同士の相互理解の促進に苦心していた。創業者は、趣味で始めたドラムによって人々が互いを理解し尊重することを体感できるのではと考え、優秀なチームビルディングの専門家や南アフリカのトップドラマーとともに、世界規模でエンターテインメントを行うチームを結成した。こうして、1996年、「ドラムカフェ・インターナショナル」が誕生し、12年後、この活動は「フォーチュン」の世界トップ500企業に受け入れられ、現在、世界20ヶ国以上、20,000回以上にもおよぶパフォーマンスを行なっている。

星山真理子さんは、2009年5月、「ドラムカフェ」の代表と出会い、翌月、南アフリカの本社を訪ね、日本でも「ドラムカフェ」を通じて企業組織、地域社会や教育現場に絆を取り戻す事が出来ればと「ドラムカフェジャパン」を立ち上げた(http://www.drumcafe.jp/)。その後、東日本大震災を受け、「にこにこスマイルプロジェクト」を立ち上げ、2011年5月から被災地を回る活動を展開している(http://www.2525smile-p.jp/index.html)。実は、昨年、立命館でやっている「東日本・家族応援プロジェクト」で宮城県多賀城市を訪れたとき、上山先生ご夫妻とご一緒して、たまたま真理子さんと出会い、「ドラムカフェ」の話を聞いた。上山先生が真理子さんとプランジャパンをつなぎ、このプロジェクトが可能になったのだ。

避難所のお年寄りたちが、アフリカ人のドラマーたちと一緒に全身笑顔で太鼓を叩いている映像には驚かされたが、実際にやってみると、本当に楽しくて、だんだん皆の体が開き始め、部屋全体にエネルギーが充満し、最後は一体となって親密な暖かさで包まれ、解放されるのを感じた。アーティストが大きな太鼓を叩き、私たちが自分の太鼓に手を置いて掛け合いの順番を待っていると、アーティストの叩く太鼓の振動を私たちの小さな太鼓が拾って、太鼓に置いた手から大きな太鼓の振動が私たちの体に伝わってくる。私たちの体は離れているけれど、つながっている不思議を感じた瞬間だった。トラウマは人々の心身を閉ざし、エネルギーの交流を拒否させるが、ドラムは体を開き、人々のつながりを促すのだ。この小さな太鼓「ジェンベ」という名前は、平和を意味するのだそうだ。

上山先生によれば、災害後の心理社会的支援として、「見る・聞く・つなぐ」の3つのキーワードが重要だという。確かに、上山先生がプランジャパンと真理子さんをつなぎ、ドラムカフェが東北を巡るようになったことの意味は、とてつもなく大きい。真理子さんは多賀城の人で、「ドラムカフェ」は多賀城の貴重な社会資源だったのだ。そう考えれば、自分のやっている「東日本家族応援プロジェクト」も、「見る・聞く・つなぐ」なのだと思う。これによって、自分のいる所と被災地をつなぎ、団士郎さんの家族漫画や院生たちを現地につなげているのだ。そこからいろいろなものが生まれていく。「応援プロジェクト」と名付けているものの、本当のところ「支援」をしているつもりもなかったのだが、そう考えれば、「心理社会的支援」と言えなくもない。太鼓はパワフルなツールだが、つなぐものは、必ずしも太鼓でなくてもいい。東北にいる日常と関西にいる日常は、すでに大きく離れている。今年は、もっと意識的に「つなぐ」ことを拡げていきたいと思った。