今月のトピック by 村本邦子

2012年9月 大学生のジェンダー意識と教育

今月は、「大学教育におけるジェンダー・ファミニズム」というシンポジウムの話題提供を頼まれて、日本心理学会に初参加した。とても面白かったので紹介したい。

上野淳子さんの報告によれば、若者の保守化傾向は高まっているそうだが(20代、30代で専業主婦志向や性別役割分業の賛成が増加している)、「保守的」の内容はこれまでとちょっと違っているという。少なからぬ女性たちが「夢ある専業主婦」を目指し、「子育てはしたいけれど、家事は手伝ってね、稼ぎはお願いね、私は好きなこともしたいから」と考え、男性の方は、将来に不安や自信のなさ、危機感をもっており、仕方なく仕事中心の生活をして、「できる範囲で家事育児を手伝いたい」と考えているらしい。ちなみに、25-34歳の男性で、年収600万以上稼ぐのは6%ほど、平均は250~500万である。

続く松並知子さんの報告によれば、女性は男性以上に貧困化しやすく(賃金格差や高齢単身世帯増加などによる)、85%の女性が働いているにも関わらず貧困化しているという。そもそも女子大学生の金銭感覚は非現実的であり、将来のパートナーに依存する傾向がある。自分の初年度の年収と、結婚時のパートナーの年収を予測させると、自分の年収については現実的であったが、パートナーの年収についてはかなり高額に見積もっていた。とくに専業主婦希望層では600万近くを見込んでいる。上記のデータと突き合わすと、専業主婦希望層が6%の男性を奪い合うということになる。また、働くつもりの女性たちも、自分の退職年齢は46.75歳と予想しながら、パートナーの退職年齢は61.91歳と予想した。

結局、女性たちは、若い頃は、自分に都合良く夢を見ているが、現実は厳しく、辛酸を嘗めることになるということか。松並さんの意見は、だからこそ、女性にファイナンシャル・リテラシー(お金や資産を主体的に判断し管理できる能力)が必要で、実際にこれをやってみると、女子大学生のジェンダー意識は向上したという。なるほど。若干、耳の痛い話だ。私自身は早くから自活してきたため、お金についてきわめて現実的であると思うが、貯金や資産云々の話にはアレルギーがあって、お世辞にも賢明とは言えない。

荻野佳代子さんの話は、女子学生向けのキャリア教育についてだったが、国の施策や東京女子大の取り組みなど興味深かった。女子学生のキャリア教育は男女共同参画の組織的展開の一環として推進されることが大切であるという。私の報告は自分自身の取り組みを整理し直したものだが、今後の課題として男女協働型の組織運営とはどういうものかということを提起しておいた。20数年、女性のみの組織を運営してきて、女性ならではの関係性のあり方を含め、それなりに獲得してきたものがあったが、男女混合の大きな組織の中で、性別役割を越える男女の協働モデルの確立の難しさに、最近考え込んでいる。ジェンダー教育そのもの以上に、大学の隠れたカリキュラムとしての、男女教職員の態度・振る舞いは学生たちにジェンダーに関する何らかのメッセージを与えているはずだ。

もうひとつ、全体を通して、経済優先主義と個人主義を乗り越えていく新しいジェンダー論が必要なのだということを考えている。決して現状が良いとは思わないが、特権主義フェミニズムになってはいけないと思う。昨年より、震災復興支援で継続的に東北に関わるようになったが、性別役割分業がある代わりに、助け合いやネットワークが生きていることを実感している。影の部分を乗り越えていかなければならないが、みんなが男になればよいというものでもない。最大の教育は良くも悪くも上世代の生き方を示すことである(悪い部分も反面教師にはなる)。心して新しい男女共生モデルを模索したい。