今月のトピック by 村本邦子

2012年8月 アイヌモシリ・北海道〜脱植民地化のための平和学

北海道大学で開催された日本平和学会第4回全国キャラバンというのに参加した。本州にいるとアイヌの問題はほとんど視野に入ってこないが、北海道に来ると、いつも何がしかアイヌのことを考えさせられる。先月は戦後開拓に触れたが、開拓記念館の展示を見て、開拓は侵略であることを体感し、衝撃を受けた。今回は、「植民地化」というキーワードが頭に入ってきた。

明治政府が蝦夷地を北海道と改称し、「国郡制」が導入されたことは小学校の頃、教科書で2行ほど習ったような気がするが、考えてみればこれが「植民地化」だったわけだ。アイヌにとっては何千年も生活の場であったアイヌモシリを、持ち主のない土地だからと明治政府が勝手に官有地にして、大規模な和人の移住による開拓が進められた。

初めて聞く話だったが、二風谷(にぶだに)というアイヌ民族が多く暮らす土地にダムが建設された。反対運動から訴訟となり、国も加わって、1997年、札幌地裁はアイヌが先住民族であることと、アイヌの文化享有権を認め、ダムの違法性が認定された。とは言っても、ダムは、今なお、あるわけだが、写真など見せてもらうなかで、ひとつのダム建設がどんなふうに致命的に、自然を、人々の暮らしを、文化を変えてしまうのか考えさせられた。おのずと原発のことが思い浮かぶ。

基調講演をした貝澤耕一さんは、現在、NPO法人ナショナルトラスト・チコロナイを立ち上げ、寄付金で周囲の土地を少しずつ買い取って、森を作り始めているという。「本来の森はもはやどこにもない。木はみな切り倒されてしまったから、大木を見ようと思ったら、北大に来るしかないでしょう」と言っておられた。実は、会場へ向かいながら、「北大はなんて自然に恵まれた美しいキャンパスなんだろう」と感動していたのだが、実は、これこそ帝国主義のあらわれだったわけだ(実際、北海道帝国大学時代には「植民地学」が教えられていた)。

シンポジストたちの話もいずれもおもしろかったが、コメンテーターの小田博志さんが、平和学の脱植民地化、研究と大学の脱植民地化、市民社会の脱植民地化ということを言っていた。植民地主義が意識に上らないという意味で、私たちは今も帝国主義の遺産のなかに生きているわけだ。

今回の「平和キャラバン」は、「平和を定義する力」を平和研究に取り戻すという趣旨で全国を巡り、8回続けられるそうだ。平和学会も平和の定義を独占するのではなく、複数の平和の定義を許容して、多様な平和観が共存し、競合しながら切磋琢磨して個々の平和観を鍛える知的空間を学会内部に作り出すという。なかなかいいじゃないか。とても満足度の高い一日だった。