今月のトピック by 村本邦子

2012年1月 イスラムの模様

スペイン旅行でもっとも心を魅かれたものがイスラム文化であり、なかでも、その模様である。壁、天井、窓枠、庭の石畳にいたるまで、ありとあらゆるところに、繊細で美しい模様が散りばめられている。あまりの美しさに言葉を失った。イスラム文化についての知識はないが、それが何かスピリチュアルな意味を含んだものであることは想像できた。辛うじて思いついたことは、イスラムは偶像崇拝を禁じるために、抽象的でシンボリックな図柄が高度に発達したのだろうということだ。

帰ってから、少し勉強してみたいと思って調べたが、あまり情報はなく、1冊だけ『イスラム芸術の幾何学〜天井の図形を描く』(ダウド・サットン著、武井摩利訳、創元社)という本を見つけた。さっそく注文したが、小さな絵本のようなきれいなものだった。情報量は少ないが、初心者にはちょうどよくて、まだ十分には理解しきれていないが、とてもわくわくする内容だった。

この本によれば、宗教美術は、物質を使って霊的世界を表現し、その場を訪れた人々の霊的生活を支え、世界をどう理解すればよいか、世界の背後にある捉えにくい現実をどう把握すればよいかを教えるものである。イスラムのデザインの視覚構造には、アラビア文字のカリグラフィーと抽象的な装飾模様というふたつの面がある。後者、つまり、装飾模様には、さらにふたつの中核要素があり、ひとつは幾何学パターン、もうひとつは理想化された植物模様(アラベスク、唐草、葉、蕾、花など)である。

幾何学パターンは、もっともシンプルな円から出発する。まず、ひとつの点を思い浮かべて欲しい(文字で説明するのは難しいので、興味があれば、是非、作図してみてください)。点を拡張すると線になる。この線を最初の点のまわりに回転させると円ができる。円は、「一」「単一性」「唯一性」の完璧なシンボルである。この円の円周上の1点を中心にして、最初の円の中心を通る第二の円を描く。できた交点を中心に順々に次の円を描くと、中央の円のまわりに計6個の円が描かれる。これは、コーランに記された天地創造の6日間の理想表現だという。この構造を無限に広げていくと、平面を充填する正六角形のタイリングが作り出される。これ以上の説明は無理なので、関心があれば本を読んで頂くとして、ここに「ソロモンの印章」(6つの角がある星)が現れてくる。

このように、コンパスと定規を使って、一定の規則に従い、単純なパターンから数限りない複雑な抽象模様ができる。アラベスクのデザインは、幾何学パターンを補完する。アラベスクは、植物のリズムや生長のエッセンスを視覚的に抽出し、原型としての「楽園の庭」を想起させることにあるという。アラベスクモチーフの基本である渦巻は、原初的かつ普遍的なシンボルで、生命およびそのサイクルと結びつき、カリグラフィーとともに用いられたり、空いたスペースが花や葉で埋められたりする。

一定のパターンを習得すれば、おそらく自分で新たなデザインを創りだすこともできるはずだ。もちろん、宗教性抜きには無意味なのだろうが、それでも、仮に、偶然、美しいデザインを創りだすことに成功したとすれば、そこには深い象徴的意味を見出すことができると言われれば、信じてしまうだろう。アルハンブラ宮殿(グラナダ)やアルカサル宮殿(セビリア)、モロッコで本当にたくさんの美しいタイルや透かし模様を見た。もう少し知識を身につけて、世界中を旅することができたら。異なる他者を理解し、尊敬するところから、平和は始まる。これを機会に、もっとイスラムの人たちのことを知りたいものだと思った。