今月のトピック by 村本邦子

2011年10月「南京を思い起こす2011〜戦争のトラウマと和解修復の試み」を終えて

10月5日から8日までの4日間、南京セミナーを無事に終えた。このセミナーについては、すでに繰り返し紹介してきた(「2007年11月南京を想い起こす」http://www.flcflc.com/muramoto/07/11.html;「2009年10月南京セミナーを終えて」 http://www.flcflc.com/muramoto/09/10.html)。2007年、2009年と、今回で3回目の南京訪問となった。参加メンバーは必ずしも一緒ではないものの、中核メンバーが一緒であるため、回を重ねるごとに信頼や絆が深まってきたことを感じている。

今回は40人という大グループのワークショップだったが、遊び心たっぷりのプレイバッカーたちの存在に助けられ、私たちの表現の幅も拡がったような気がする。アルマンドの指揮のもと、日本と中国のプレイバッカーたちが協働でシアターを提供してくれたのは圧巻だった(プレイバックシアターについては、プレイバッカーAZさんのHP参照のことhttp://www.playback-az.com/playbackaz/pt/index.html)。初日のオープニングから惜しみなくシアターが展開され、3日目の夜には、プレイバックシアターが公開された。アルマンドは、芸術や創造の力によってトラウマを昇華すること、また社会に働きかけていくことを狙っているのだが、あらためてアートはパワフルなツールであると実感。実は、ほとんどの参加者たちは知らないが、これが日中のプレイバッカーたちの初めての共演だったため、1日のワークショップが終わってから、皆くたくたに疲れていただろうに、彼らは、毎夜、熱心にリハーサルを行っていた。プロの仕事とはこうあるべきだと、その姿勢にも胸を打たれたものである。

絆の深まりとプロによる先導によって、私たち、加害者側と被害者側の子孫も、少しずつ心を開き、礼儀や遠慮を越えて、本音を分かち合うという難しい課題に挑戦することができた。表に見え、聞こえる中国人の声、日本人の声の裏側に、それぞれ傷ついた子どもの声が隠れている。これを、アルマンドは、中国の椅子、日本の椅子という舞台設定を使い、時にダブリング(セラピストが影として声を補強すること)によって、表現を促していった。加害者側と被害者側の子孫たちの悼みや哀しみが身体レベルで痛かった。みな愛おしい傷ついた小さな子どもたちだった。なぜ世の中から大人たちがいなくなってしまったのか、戦争という狂気のもたらした結果である。こんななかで、大人として成熟していかなければならないというのは途方もなく大変なことだ。

もう一方で、今回、私は、日中の溝だけでなく、男女の溝をあらためて思い知ることになった。日中関わらず、男たちは(厳密に言えば、記号としての男と言えるだろう)、今なお強さにこだわり続けている。要するに、強い方が正義なのである。勝つか負けるかしかない。そして、男たちが、自分に属する女や子どもを大切に思い、守ろうと思えば思うほど、それだけ、敵を侮辱するには、その大切な女や子どもを破壊し尽くすことが効果的であるということになる。もっと言えば、女たちが男に保護を求め、強くあることを求めれば求めるほど、男たちは、この強さのシナリオから降りられなくなるのだ。戦争をするのは男だが、背後でけしかけるのは女である。どうしても、こんな構造を打ち破らなければならない。

中国の若い男性が、自分の友人たちは、イラク・アフガン戦争に行っているという。アメリカに留学して、軍に志願したのだそうだ。19歳にして戦場で銃を撃っている。そうでなければ撃たれる。「自分だってそこにいれば同じことをするだろう、矛盾している」と、彼はシニカルに言い放った。経済的な事情なのか、グリーンカード(永住権)を得るためなのか、正確な事情はよくわからないが、留学生たちが軍に志願するのだということを私はこれまで認識していなかった。少なくとも、日本の留学生で、軍に志願して戦場に行ったという学生の話は聞いたことがない。なんだかんだ言って戦争は遠い過去の話だと思っている日本の若者たち(もう若くはない私たちも含め)と、戦場が今現在もリアルなものである世界の若者たち。

こんな世界において、私たちのワークショップがいったいどのように影響し得るのか、正直言って不確かである。確かなことは、こうして中国の人々とともに、時間とエネルギーを惜しまず、互いに手を差し伸べ、歴史の闇と光を分かちあうことを通じて、どんな状況下にあっても、私たちは殺し合うことなどできないという感覚を強めていることだ。どんなことが起こるかわからない時代である。どんなことが起こったとしても、大きな流れに流されることなく、抵抗し続ける力を増す努力を続けたい。