今月のトピック by 村本邦子

2009年3月 Healing the Wounds of History(歴史の傷を癒す)

久しぶりにサンフランシスコに行ってきた。アルマンド・ボルカス氏のワークショップHealing the Wounds of History(歴史の傷を癒す)に参加するためだ。今回のワークショップは、自分自身のためにお願いしてアレンジしてもらったもの。アルマンドとの出会いは、2007年の春のプレイバックシアターに遡る。戦争とトラウマに関する私なりの挑戦はもっと前に遡るが、以後、村川治彦さんの始めた「こころとからだで歴史を考える」のメンバーとともに歴史のトラウマに取り組んできた。

アルマンドは、ユダヤ系アメリカ人で、レジスタンス運動家だったホロコースト・サバイバーの二世である。両親から引き継いだ過去の遺物を表現するものとして演劇に出会い、演劇を通してユダヤ人文化を創造しようと試みていた。70年代半ば、在米のホロコースト・サバイバーの二世たちのサポートグループに関わるなかで、だんだん、それが被害者意識を永続させているだけだと感じるようになったという。彼の興味は、被害者意識の変容だった。そんな時、若い殺人犯のセラピーに関わり、人がどうやって、拷問、レイプ、殺人のような人間性を奪う行為に及ぶのか、ホロコーストの裏にある悪を理解したいという衝動に駆られるようになる。そんなところから、ナチの子どもたちと一緒にワークをはじめ、パレスチナ人とイスラエル人、日本人と中国人、アフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人、ネイティブアメリカンとヨーロッパ系アメリカ人などのワークを行ってきた。

Healing the Wounds of Historyが前提とするのは、@集合的トラウマは集団によって共有され、社会全体に大きな影響を与える可能性がある A親世代が意識せず、表現されなかった悲哀というトラウマは、世代間連鎖によって、次世代に引き継がれる B歴史のトラウマは、文化的・国家的アイデンティティと自己評価に否定的影響を与える C人は誰もが、潜在的に加害者となる可能性を持ち、一定の条件下にあれば、非人間的で残虐な存在になり得る D私たちが人間存在のなかにある欲求、情動、無意識的衝動を理解し、考慮できるようになるまで、国際紛争の永続的な政治的解決はない という考え方である。
 
 目指すゴールは、@文化的・国家的アイデンティティを認識し解体すること A国際的な葛藤解決とコミュニケーションの仕方を学ぶこと B個人的、そして集合的悲哀と服喪を経ること C共感の文化を創造すること D苦しみから意味を創造すること だ。そのために、表現アートセラピーやドラマセラピーなどの技法を用いたワークショップを行い、映像、パフォーマンス、アート、儀式などを媒体としたパブリックイベントを行う。アルマンドはこうした活動を、social actionと意味づけ、同じ仲間の笠井綾さんは、コミュニティワークと呼んでいる。共感する力こそ、コミュニティの自己治癒力であり、共感的な文化を創ることこそ平和を創ることに他ならないという。

今回、自分自身がワークし、また、理論の確認を行うなかで、ますますこの手法に魅力を感じている。いろんな視点から歴史を見直すことで、異なる立場の人たちと共感しあうことが可能になるだろう。今は、仲間たちと、再度、南京を訪れ、中国の人たちと一緒にワークしてもらうことができたらと考えている。少しずつでも地盤を固め、コミュニティワークを拡げていけたら。今後、ますますグルーバル化する世界のなかで生きていく次世代たちのコミュニケーション教育としても有望な方法だと思う。