今月のトピック by 村本邦子

2008年12月 ライフデザイン

 昨年より、「ライフデザイン論」という授業を持っている。「愛すること、働くこと」をキーワードに、ライフサイクルに沿って、さまざまなトピックを取り上げ、理論の紹介やグループワークなど行ってきた。若い学生たちの反応にいろいろ考えさせられることが多い。たとえば、少なからぬ若者が、「仕事イコールしんどい、大人になるのは嫌」と感じているということ。おそらく、親、とくに父親から、子どもたちは、「仕事はしんどいもの」というメッセージを受け取っているのだろう。たしかに、夜遅い電車で居眠りしている会社帰りのサラリーマンたちはクタクタに疲れているように見える。日曜日、家でゴロゴロしている父親に、「家族のためにしんどい思いをして働いている」と言われれば、「大変そうで申し訳ない」という気分になるだろう。

 本当にそうなのだろうか?さまざまな職場で働く男たちを思い浮かべながら、「みんな、結構、楽しそうにやってるけど・・・」と突っ込んでみたくなる。多くの男たちは、愚痴はこぼしても、そんなに嫌々、働いているわけでなく、好き好んで働いているように見える。ひょっとすると、家族向けに、仕事のしんどさばかりをアピールしている側面があるのではないだろうか。仕事がしんどくないと言えば嘘になるが、しんどいばかりではない。仕事を通じて社会に大きく開かれ、力を合わせて何かを作り出す喜びもある。同僚たちとの関係で、支えたり、支えられたり、対立したり、悩んだり、時には、友人とも出会える。仕事を続けて初めて知る面白さは数限りない。ちょうど、学校や部活を思い浮かべたらいいのかもしれない。楽なことばかりではないけれども、そこには多様な世界と意味がある。子どもたちには、もっと仕事の面白さを伝えてもよいのではないだろうか。
 
 そして、ジェンダー。ベルイマン監督の「野いちご」を見せる。主人公であるイーサクは、仕事一筋に生き、医者としてたくさんの人々を救い、感謝もされ、研究面でも多くの功績を残し、名誉博士号を授与されるというのに、その日の朝、悪夢に苦しめられることになる。「働くこと」はしてきたけれど、「愛すること」を怠ってきた罪への罰は、「孤独」だというのだ。対比的に、ロザンナ・アークェット監督の「デブラ・ウィンガーを探して」を見せる。40代になった34人のハリウッド女優たちに、仕事と子育ての両立についてインタビューするという映画だ。女たちは、常に、「愛すること、働くこと」のバランスに悩み、苦しみ、もがきながら生きている。ロザンナは、愛か仕事(バレエ)かを迫られて、鉄道に身を投げる「赤い靴」で映画をスタートさせ、自分自身の豊かな才能は抑え、夫や妻を支え続けて、結果、癌で亡くなった母親のお墓で映画を締める。男たちは悩まない。だからこそ、イーサクのように、老年期になって初めて人生の喪失を知ることになるのだ。
 
 そのほか、レポート課題を提示し、「世界の二十歳」で、文化圏の違う若者たちがどんな生活をしているのか、「八十歳のライフコース」で、高齢者がどんな人生を生きてきたのかをインタビューさせ、個人の人生が、社会階層や文化、時代によって、どれほど大きい影響を受けるのか学ぶ。狭い世界に生き、自分の人生を早々と限定してしまいがちな学生たちにはよい刺激になる。そうして、綿密にデザインして、理想の人生を作らなければならないのではないかと思いこんでいた若い者たちが、人生いろいろ、何が良くて何が悪いのかわからない、自分自身や周囲の人を大切にしながら、その時々を精いっぱい生きていくことで人生はおのずと形成されていくのだと考えるようになっていく。やっていて面白い授業である。本当のところ、働くことこそ愛することではないのかと思っている私である。