今月のトピックス by 村本邦子

2006年9月 韓国の「産後養生院」を視察して

 韓国の「産後養生院」の視察をしてきた。産後養生院というのは、出産後、母子を受け入れ、産後の世話をしてくれる施設のこと。複数の民間企業が運営しており、出産した女性の2割が利用するという。要するに、至れり尽くせりのホテルみたいな施設で、私たちが訪れた「ロイヤル」という高級施設のVIPルームは、田園風景の拡がる窓、天蓋つきのベッドに、TV、冷蔵庫、シャワー、トイレ完備、そして、毎日2回のプログラム(ヨガや赤ちゃんの玩具作りなど)、マッサージ、美容室などのサービスもある。座浴のできる器具、骨盤の歪みを矯正する器具などもある。

 一緒に入所している仲間たちと集える応接間や食堂も美しく、モーツアルトが流れている。赤ちゃんたちは、完全防備の新生児室で看護婦さんたちによって見守られ、お母さんたちは、自分の好きなときに、赤ちゃんを抱っこしに行ける。産後の回復と母乳に良い食事が、1日3食、おやつ2食で含まれ、2週間で、ざっと二十数万円。決して安くはないが、日本よりさらに少子化の激しい韓国、一生に一度の体験と考えれば、利用できない額ではない。私も、思わず、「もう1人産んで利用しようかしらん!?」と考えたほどだ。もう少しランクを落とせば、2週間で10万弱(すべて個室)。 

 このような施設が始まったのは、1996年だそうだが、発案者であり、現在もこの業界でトップを誇るサインダン社の金会長のインタビューも行った。韓国では、伝統的に、義母もしくは実母が産後の母子の世話を行ってきたが、現代では、祖父母世代も働いていたり、互いに気を遣うなど人間関係の煩わしさもあって、なかなか難しい。そこで、社会的サービスとして利用できるこのような施設が必要だというところから、スタートしたところ、予想以上にニーズが高く、瞬く間に全国に拡がっていったという。現在、台湾にも進出し、中国にも進出しようとしている。

 施設利用に期限はないが、ほとんど2〜4週間。その後、産後ヘルパーの派遣事業の方を利用する人たちが多い(朝から晩まで毎日いてくれて、2週間で7万程度。住み込みのヘルパーもいる)。私自身は、2人の子どもを産婆さんの助けを借りて、自宅(実家)で産み、産後、1ヶ月は実家の世話になったクチなので、本来は、子産み・子育てが、日常の人間関係のなかで自然になされるのが一番いいんじゃないかと思っている。それでも、現実的に考えた時、たとえば、娘が子どもを産む時に同じだけのことをしてやれるかと言えば、住居から言っても無理だし、おそらく時間的にも無理だろう。親子関係がかえってストレスになるケースも少なくない。お金で、このようなサービスを買うことができれば(韓国でも、世話できない分、親が金銭的援助をすることが多いらしい)、安心ではないか。

 「いいな〜」と思って聴いていたが、だんだんわかってきたことは、韓国では、8割が帝王切開だという。以前、ブラジルの帝王切開率の高さに驚いたことがあるが(似たような数値だったと思う)、日本では考えられない。本当に必要なケースがそんなに多いはずはないから、管理分娩の一種なのだろう。みんながそうだと、違和感を持たないのだろうか。そう言えば、韓国では、ほとんどの女性が美容整形し、「整形すればもっと美しくなれるのに、どうしてしないの?」と言うと聞いた。お国柄の違いというものだろうか。

 実は、産後養生院が母子別室であることに首をかしげたのだが(最初は母子同室でスタートしたが、利用者のニーズから、現在はすっかり別室になったという)、たしかに、帝王切開だと、産後の体は辛く、回復にも時間がかかることだろう。利用者のインタビューも行ったのだが、「母子別室だけど、実際、どのくらいの時間、赤ちゃんと過ごすんですか?」と尋ねたところ、「私のケアのために来たのだから、私が会いたい時に会います!」とぴしゃっと言われたのには、正直、驚いた。産まれた時から、片時も離れず一緒に寝ていた自分の体験からは想像だにできないが(だいたい、赤ちゃんが、ほ乳瓶から1人でミルクを飲んでいる姿がなんだか可哀想だった。日本でも、新生児室とはそういうものらしい)、もっとも恵まれた形でお産をした自分の経験を基に物を言うこと自体が傲慢なのだろう。

 実際、新生児室は、ウィルスから遮断され、温度や湿度なども完全に管理されている。そして、タイやらインドネシアやらと同じで、赤ちゃんは包帯みたいな白い布でグルグル巻きにされていた(その方が、包まれた安心感があるということなのだろう)。きっと、ストレスの少ない状態が保たれ、お腹のなかにいる延長なのかも(産道も通っていないし)。いずれにしても、母子共に、最大限、ストレスを取り除き(そもそも、母子の適温が違うことも別室の理由として挙げられていた)、互いにベスト・コンディションで、出会いの時間を持つというのには、意味がありそうだ。それに、大半が地域の利用者たちだから、子育て仲間ができるし、産後養生院が、地域の新しい実家としても存在するようになるのだろう(サービスとしてあるわけではないが、過去の利用者が良く訪れるそうだ)。

 今後の日本社会でも、このようなシステムを取り入れていくことは役に立つだろうが、私としては、助産院の延長にこのような施設が作れないものかと思う。可能な限り自然分娩を中心に、母が暖かくケアされ、母は子を暖かくケアできるような仕組みだ。そこが、その後、地域の子育て支援の役割も果たす。もちろん、これは、小規模施設であることが前提だ(サインダム社は、最大20室までと決め、家庭的なケアを提供し続けることで、顧客満足度を保っている)。人工的な大家族制のようなイメージ(都会での子育てにおいて、私の場合、学童保育は、そんな役割を果たしてくれていた)。一般に利用できるように、公的補助が欲しい。