2008年11月のきまぐれトピック

ワークライフバランス

渡邉佳代

 ワークライフバランスという言葉をご存知ですか?ワークは仕事、ライフは生活、バランスは調和であり、「仕事と生活の調和」と訳されます。このワークライフバランスは、2007年12月に、政府が経済・労働界のトップとともに策定した憲章なのですが、残念ながら、この名前と内容を知っているという方は、そう多くはないようです。

 まずは、ワークライフバランスという考え方が、注目されてきた背景について、簡単に紹介しましょう。女性の社会進出に伴い、働く女性の支援のために、これまでも様々な政策が打ち立てられてきました。たとえば、1985年には男女雇用機会均等法、1991年には育児休業法、1994年には保育サービスなどの拡充を図ったエンゼルプラン、2000年には女性の雇用や母子保健、子育て相談、教育などの拡充を図った新エンゼルプラン、2003年には労働者の家族に配慮した次世代育成支援対策推進法などです。

 ワークライフバランスが政府の指針とされたのには、近年の少子化問題、若い世代のニートや離職者の増加、非正規雇用者の雇用環境の問題、高齢者介護の問題、中高年者の自殺などが背景として挙げられます。しかしながら、上記の働く女性の支援のための政策が、子育ては女性がすることを前提にしてきたため、これからは子育てを皆で分かち合おうという流れになってきたことが、大きな背景としてあると言えます。

 これまでも、女性は仕事と家庭の間で悩み、苦しみ続けてきました。仕事か家庭か、そのどちらかを選ばざるを得なくても、不全感と罪悪感を抱く方が多く、カウンセリングに相談に来られる方も少なくありません。たとえ、両方を選んだとしても、「自分がしたい仕事のために、家族を我慢させているのではないか?私のワガママなのだろうか?」と葛藤を抱える方も多いようです。

 ワークライフバランスは、「仕事か家庭か」の二者択一ではなく、「私はどのように生きたいのか?」「私はどんな人間でありたいのか?」「私の人生がより豊かになるためには、どうなったらいいのか?」を考え、自分なりの満足感が得られる「調和」を探すものであるため、性別や年齢に関係なく、個人がより良く生きるための考え方であると言えます。

 まずは、自分がより良く生きるためのワークライフバランスについて考えてみましょう。

@私にとって、「ワーク(仕事)」とは、具体的にどんなことか?私が「ワーク(仕事)」に求めること、実現したいことは何か?
A私にとって、「ライフ(生活)」とは、具体的にどんなことか?私が「ライフ(生活)」に求めること、実現したいことは何か?

 ワークは有償労働だけではなく、その人にとっては無償労働を指すこともあるようです。ライフには、子育てや家庭生活だけではなく、地域活動や趣味、学習も含まれます。まずは、自分なりのワークとライフを明確にし、現在のワークライフバランスに満足感を得られない要因を整理することが大切です。そうすると、自分なりの目標や夢が具体的になってくるでしょう。今まで漠然としていた不満感がクリアになることは、ストレスマネジメントにもなり、また自分なりに充実して生きる手ごたえは何かが見えてきます。人によっては、がむしゃらに働き、ライフがすべてワークでも、自分で豊かに生きていると満足していたらOKということもありますし、またその逆も言えるでしょう。

 ワークとライフのそれぞれで実現したいことは、「こうなったら、自分の人生はより豊かに感じられる」と思うことを具体的に挙げてみましょう。ポイントは、この「具体的に」ということです。「家族と充実した時間を過ごす」としても、充実した時間と感じられるには、具体的にどんなことをしている時なのか、たとえば、家族と一緒に食事をする、1日10分でも夫と子どものこと以外の会話の時間を持つなどです。

 人の時間は平等に24時間あり、制限がありますので、どれもこれも…というわけにはいきません。1日のタイムスケジュールや、人生のタイムスケジュールを持つといいでしょう。目標や夢が具体的になったら、「そのために、今、何ができるか?」を考え、優先順位を明らかにしていきましょう。ここでのポイントは、「私が」を主語にして、今できることを考え、実際に行動に移すことです。

 自分の「〜したい」「こんな風に生きたい」を考えるとき、それを阻む固定観念や、ジェンダーなどの刷り込まれた価値観に気づくこともあります。その場合、自分なりのワークライフバランスをサポートする資源を集めること(たとえば、家事代行、子育てサポーター、相談機関など)、「この人のように生きたいな」というモデルを持つことも助けになります。

 ワークとライフは切り離して考えるのではなく、相互に活かし合うことができるといいですね。私自身、豊かだと感じるライフでの人との出会い、旅行、読書などは、臨床活動であるワークにも活かせて、なんとお得な仕事だろうと感じます。これまで、がむしゃらに働くことで私は満足感を得てきましたが、人生のタイムスケジュールを考えて、そろそろライフにも時間とエネルギーを注いでいきたいと感じるようになりました。私らしいワークライフバランスを、これからも考えていきたいと思っています。