女性ライフサイクル研究所 とじる

トラウマへの統合的アプローチ

トラウマとは、心が傷ついた状態、その体験のことを言います。

当研究所では、子ども時代の虐待、性被害、DV、人生における喪失体験など、トラウマからの回復のための心理的援助に力を入れています。

ここでは、トラウマの影響とその回復についてご理解いただくために、ハーマン(1994)のトラウマからの回復の三段階モデル、ハーベイ(1999)の回復・レジリエンスの多次元モデルをご紹介いたします。

個人カウンセリングでは、来談された方のニーズに基づきながら、回復の段階、もっている回復力やレジリエンス(復元力)に応じて、精神力動的アプローチ、認知行動的アプローチ、EMDRなど、トラウマへの統合的アプローチをとっております。一度にすべてをやる必要はなく、必要な時に必要なことをやっていきます。どこを当面の目標とするのか、どのように進めていくかは、来談された方と話し合いながら行いますので、詳しくは、カウンセラーにご相談ください。

↓トラウマからの回復の三段階
↓回復・レジリエンスの8次元の基準

トラウマからの回復の三段階

トラウマからの回復には三つの段階があります。第一段階の中心課題は安全の確立、第二段階の中心課題は想起と服喪追悼、第三段階の中心課題は通常の生活との再結合です。これは本来複雑な渦を巻いている過程を単純化し整理したもので、各段階を直接的に通過していくものではありません。回復の段階は螺旋的であり、やり直しがあったり、すでに取り組んだ問題をもう一度見直すことがあります。しかし、順調な回復では、この方向に向かって段階的な移行が認められます。

1. 第一段階 安全の確立

トラウマは、人から力とセルフ・コントロールの感覚を奪います。そのため、力とセルフ・コントロールを取り戻すことが最初の課題となります。
安全の確立はまず、身体のセルフ・コントロールに焦点をあて、次に次第に外に向けて環境のコントロールに重点を移します。セルフ・コントロールの課題には、睡眠、食欲など身体機能のコントロール、身体運動、PTSD症状のマネージメント、自己破壊行動のコントロールがあります。環境的な課題には、安全な生活状況の樹立、経済的安定、行動の自由、生活全般をカバーする自己防御計画があります。いかなる人も独りだけで安全な環境を打ちたてることは不可能です。安全な環境をつくるには、家族や友人などサポート、社会資源を利用するなど、社会側の支援が不可欠です。

2. 第二段階 想起と服喪追悼

回復の第二段階はトラウマのストーリーを語る段階です。この再構成の作業によってトラウマの記憶は実際に形を変え、その人の生活史全体の中に統合されるようになります。しかし、過去の体験と対決するかどうかの選択は本人にゆだねられます。
トラウマのストーリーを再構成する仕事は、トラウマ以前の生活の概観から初め、トラウマの出来事に至る経緯と進みます。トラウマ以前の歴史を取り戻すことも重要です。次の一歩はトラウマとなった出来事を追って、時間の前後関係と歴史的文脈との方向づけのしっかりした物語を再構成していきます。
トラウマによって失うことがあることはどうしても避けられません。喪失を悼むことは回復のこの段階においてもっとも必要な作業です。これはとても辛い作業ですが、癒しの重要な部分です。失った一つ一つを悼むことを通じて、不壊の内的生命をみつけることができます。児童期のトラウマサバイバーは、喪ったものを悲しみ悼む仕事だけでなく、もともと持てなくて失いようがなかったものを悲しみ悼む作業をしなければなりません。
トラウマの再構成は決してこれで終しまいということはありえません。ライフサイクルの新しい段階ごとに新しい葛藤が生じ、新しいチャレンジを受け、それが必ずトラウマを再び目覚めさせ、トラウマの新たな面を明るみに出します。しかし、第二段階は、自分の歴史を取り戻し、人生にかかわる希望とエネルギーを新しくしえたと感じるときをもって主な作業を完了します。

3. 第三段階 再結合

過去との和解を達成した後、新しい自己を成長させ、自分を支える信念を改めて発見し、新しい関係を育て、未来を創造する段階です。第三段階の過程において、トラウマ以前の時期、トラウマ体験、そして回復の時期を振り返って、そこから自分がもっと高く評価する自分の面(複数)を改めて引き出します。これらの要素すべてを統合して新しい自己を創り上げます。理想的自己の再創造にはイマジネーションやファンタジーとを積極的に練磨することも必要となります。
この段階ともなれば、すでに適切な信頼の能力を取り戻しているものです。再び他者を信頼してしかるべき時には信頼感を持ち、信頼すべきでない時には信頼を撤回することができ、さらにこの二つの状況をどうやって区別するかが分かっています。この段階では、アイデンティティ(自己規定)と親密関係という二つの問題に集中します。

『心的外傷と回復』(ジュディス・L・ハーマン著、中井久夫訳、みすず書房)より

回復・レジリエンスの8次元の基準

1. 記憶の再生への権限

トラウマからの回復の最初の兆しは、記憶に対して新たな権限を得ることです。回復すると意識に侵入してきたものを、思い出すか、思い出さないか、選択できるようになり、記憶喪失がなくなります。思い出せなかった部分が思い出され、新しい意味が記憶に付け加えられます。記憶と力のバランスが逆転し、自ら、まとまり連続した記憶として記憶を呼び起こすことができます。

2. 記憶と感情の統合

単発のトラウマでも、慢性化した一連のトラウマでも、記憶ははっきりとつながっているが、思い出しても何も感じない、ほとんど感じない場合があります。逆に、特定の刺激に反応して、恐怖や不安、怒りなどが押し寄せるが、これらの感情が何と結びつくのかまったくわからない場合があります。いずれも、記憶と感情が分離しており、その結果、心理的問題が生じています。回復すると、記憶と感情が結びつき、感情を伴って過去が思い出せるようになります。また、過去についての現在の感情も区別して理解できるようになります。たとえば、レイプ被害者は、その時の恐怖を思い出し、感じると同時に、それを思い出している今、新たな怒りと悲しみをも感じるでしょう。

3. 感情への耐性

回復とは、トラウマと結びつく感情にもはや圧倒されたり脅かされたりしなくなることです。トラウマと結びつく感情が、耐え難いほどの直接性と強烈さを失う。防衛的な感覚麻痺や解離なしに、感情を受け入れ、名づけ、耐えられるようになります。不適切な警報と危険信号から解放されます。感情がさまざまに分化し、記憶に一定の反応ができるようになり、現在のストレスに対処する能力が増します。

4. 症状管理

特に持続していた症状が弱まり、管理可能になります。回復したサバイバーでも症状が続くことがありますが、うまく対処して、症状を減らし、ストレス管理ができるようになります。重要なことは、すべての症状がなくなることではなく、症状を予測し管理できるようになることです。

5. 自己評価

自己の価値を感じられるようになります。脅迫的で自己批判的な考えがなくなり、現実的に自分を評価し、肯定できるようになります。自分はケアされるに値することに気づき、自分で自分をなだめたり、自己実現していけるようになります。

6. 自己の凝集性

幼少期の慢性化し繰り返された被害は、アイデンティティに影響を与え、自己を不連続で断片化したものにします。回復すると自己評価や自己の凝集性の面で、これを修正し制御できるようになります。自傷行為や自己破壊的な衝動がなくなり、健康で自己受容的になります。断片化していた自己は、凝集性を持ち一貫した自己が体験されます。

7. 安全な愛着関係

他者から孤立し、再び被害者となりやすい傾向はトラウマと密接に関わっています。暴力や信頼の裏切りを伴うトラウマ体験は、安全で支持的な人間関係を求め、維持していく能力を危うくします。トラウマからの回復は、対人関係能力の発達、あるいは改善と回復を含みます。孤独に固執していたのが、信頼や愛着関係をもてるようになります。そこまでいくには、複雑な再交渉や、重要な人への服喪が必要でしょう。

8. 意味づけ

最後に、トラウマ、サバイバーとしての自己、トラウマが起きた世界に新しい意味づけがなされます。トラウマの意味づけは個人的なものであり、非常に個性的なプロセスです。損なわれた自己という感覚がなくなると、それまで不幸を背負ってきたと思い込んでいたものが、力と共感を得たという新たな発見に変わる場合もある。自分の体験を創造的に表現したり、確固たる社会活動へと変容させ、サバイバー使命を抱くことが回復のプロセスとなる人もいます。「なぜ」「なぜ私が」という問いにスピリチュアルな答えを出す人もいます。プロセスはさまざまですが、回復したサバイバーは、トラウマに名をつけ、喪に服し、命を肯定し自己を肯定するような意味づけを行います。

 「生態学的視点から見たトラウマと回復」メアリー・ハーベイ著、ハーベイ論文集(女性ライフサイクル研究所)より 
 「女性のトラウマと関わる臨床家の使命」メアリー・ハーベイ著、女性ライフサイクル研究10号より