女性ライフサイクル研究所 News Letter

2009年2月発行第84号

愛するということ

長川 歩美

精神分析の対人関係学派の一人であるエーリッヒ・フロムの著書「愛するということ(Art of Loving)」が日本で出版されたのは1959年、今からちょうど半世紀前になります。日本だけでなく世界中で今もなお読みつがれているロングセラーで、精神分析家の著書にはめずらしく、一般の人に広く親しまれています。ファッション誌などでお薦めの一冊として紹介されることもありますが、巷で人気の「こうしたら幸せになれる」という類の指南書ではないので、時に「この本の何が読者を惹きつけるのか」と不思議に思うこともあります。

恋愛についての本はいつの時代も数多く出版されていますが、その多くは「モテるためのノウハウ」「魅力的になれる方法」など、愛の問題を「愛されるという問題」として捉えていたり、運がよければ「恋に落ちる」ような、自然発生的な体験として捉えてもいるようです。そのような過程では「自分はどうしても愛されない存在なのでは・・」「愛するべき人との出会いがない」などの悩みが生じてくるかもしれません。

一方フロムは、愛の問題を「愛される」でもなく「落ちる」ようなものでもなく、「愛は技術である」と言い切ります。「技術」というと、それこそ「何かに役立つ」「ノウハウ」的なニュアンスを含んでいるようですが、ここでいう「技術」とは「愛される」ためのものではなく「愛する」ために「意志をもって習練し、学んでいくべきもの」ということのようです。簡単には紹介しきれないのですが、フロムはこの本の中で、資本主義にもとづく現代社会において、どのように人々の愛が崩壊してきており、それをどのように人が備えていくのか、ということや、愛の本質について、異性や親子、兄弟、自己といった対象ごとに考えをのべています。

本の評価や好き嫌いについては人によって分かれるところですが、「自分は愛されるに値しない」「愛を体験する機会がない」「自分には人を愛する能力がない」とどこかであきらめている人にとっては、新しい視点を得られる一冊かもしれません。