女性ライフサイクル研究所 News Letter

2007年12月発行第70号

妊娠・出産期のメンタルヘルス

安田 裕子

 妊娠・出産期は、喜びや希望などの感情のみならず、不安や心配といった負の思いが生じることもあり、女性のライフサイクルにおけるハイリスク期と考えられている。
 周産期(妊娠 22 週から生後 7 日未満)のリスク因子は、@子どもの器質的・発達的疾患、A環境的状況、B母親の性格的・体質的傾向、C母親の精神疾患既往、に大別される。Aは、望まない妊娠、不妊経験、人生早期の喪失体験、妊娠中のマイナスのライフイベント、分娩時の予想しえない重大な出来事、シングルマザー、夫婦・舅姑関係の不良、夫や家族からのサポートの欠如、妊娠・出産に関する情報の氾濫などが、そしてBは、子育てへの異常な不安、母乳分泌の悪さ、マニュアル通りにならない育児への負担感、などがある。これらは、Aと密接に関連することでもある。
 産褥期は、産後6〜8週間の、変化した母体が妊娠前の状態に戻ろうとする期間である。軽症だが頻度の高いマタニティ・ブルーズと、頻度は低いが重症である産後うつ病などの精神障害が生じうる。マタニティ・ブルーズは軽度のうつ状態で、蹄泣・不安・不眠などの主症状を示す。子どもを産んだことを後悔し、育児に全く自信を失う状態になる。急激に内分泌ホルモンがバランスを崩すことが重なって発症するというが、その証拠は明確ではない。産後うつ病との関連で、注意深くケアしていく必要がある。
 出産後1ヵ月を過ぎると、実家を含む家族からの支援が少なくなり、また、病院とも疎遠になる。他方で、母親学級や地域の育児支援、ピアサポートで相談し合いながら、子どもを通じた新しい人間関係の広がりのなかで過ごすことができる。ただし、そうした新しい人間関係にかえってストレスを感じ、出産後6〜9ヵ月ごろに疲労感が生じる場合があることも、指摘されている。
 こうした精神的問題は、育児ストレスや育児不安、乳幼児虐待へとつながりうるものでもある。子どもをもった夫婦が、妊娠期から育児期までの一連の流れのなかで、家族・地域・社会といった様々な場における多様な関わりの下、生活全体の調整ができるような心理・社会システムが、必要であるといえる。