ニュースレター No.56 / 2005年11月

ご 挨 拶

女性ライフサイクル研究所所長 村本邦子

 機会があって、この夏はバリ島へ行く機会を得た。仕事の合間を縫って、旅自体を楽しんだが、夕方着の便で到着した夜、聖山であるアグン山登山に挑戦した。真夜中の12時、ウブドのホテルでピックアップしてもらって、バリ・ヒンドゥーの総本山ブサキ寺院へ。安全を祈願し、浄めの儀式に与って、懐中電灯の光を頼りに登山を開始する。

 中村雄二郎の『魔女ランダ考』によれば、バリのコスモロジーでは、方向感覚がきわめて重大な意味を持ち、霊峰アグンが宇宙の中心をなす。その基軸をなすのが、カジャ/クロッドである。カジャとは山側、クロッドとは海側に当たり、上流/下流を指す。したがって、南バリでは、北/南に対応するが、北バリでは、逆となる。恵みの水をはじめ、良いものはすべて山からやってくると考えられており、カジャは神聖や幸運と関連づけられ、クロッドは、不吉で冥府的なものと関連づけられる。バリの人々は、方向感覚を失うことをひどく怖れ、ひどい混乱に陥るという。そのような状態になることは、世界の自分の位置、すなわちものの意味を失うことであり、このような状態は、パリンと呼ばれる。パリンになると、さまざまな悪霊たちに取り憑かれやすくもなる。誰にも負けない方向音痴の私としては、パリンにならないよう、まずは、カジャを確かめたかったのだ。

 アグン山は、3,142m。登山口になるブサキ寺院は900mに位置するので、斜面は穏やかとは言え、慣れない私にとっては、ハードな道のりだった。しばらく森を歩き、高度をかせぐと、だんだんと植物の命が衰えていき、やがて大きな岩場へ。緩やかな斜面を歩き、火山礫をトラバースしながら火口壁を回り込み、最後はロッククライミングかのように岩場をよじ登る(誇張です・・・)。朝日とともに、の予定が、ペースが遅かったため、手前で日の出を拝んでから、登頂。360度のパノラマに、思わず、息をのんだ。

 半日飛行機に乗って、寝ずの登山だったからか、あまり調子は良くなく、後半は、本当に休み休みの登山だった。現地の若いガイドさんは、私が休むたびに、横になって、グーグー眠ってしまうありさま。それだけに、今回ほど、「千里の道も一歩から」を実感したことはない。こんなに休んでばかりいて、本当に着くのだろうかとかなり疑っていたが、一歩一歩、歩めば、最後にはちゃんと到着するのだ。今回学んだことはふたつ。宇宙の、すなわち、人生の方角を見失わないこと。そして、小さな一歩ずつで良いから目指す方角に向かって歩み続けること。そうやって、地道に仕事を続けていこうと決意を新たにした夏だった。みなさま、これからもよろしくお願いします。