ニュースレター No.54 / 2005年5月

DV支援をめぐるアメリカ視察を終えて

 2月25日から3月3日まで、アメリカ視察に行ってきた。今回は立命館大学ロースクールの仕事だったので、主な目的は、ロースクールのリーガル・クリニックのあり方を見てくることだった。ちょうど、立命館大学では、この4月から2つのリーガル・クリニックができ、そのうちのひとつが、「女性と人権」クリニックである。リーガル・クリニックとは、ロースクールの学生が教育と地域貢献を目的に、無料で地域の人々に相談業務や弁護士活動をするもの。アメリカでは、60年代後半から70年代にかけての市民権運動、学生運動の中から生まれ、学生たちが、貧困層への援助として弁護活動をする許可(ロースクールの学生に与えられる仮免許のような制度)を裁判所に求めたところから、現在では、ロースクールの授業の一環として位置づけられ、教授たちのバックアップを受けながら実践に取り組む。今回は、ワシントD.C.のアメリカン大学、ジョージタウン大学と、ボストン・カレッジのリーガル・クリニックを視察した。

 ワシントンD.C.のDV法廷ではDV関連の裁判を傍聴したが、子どもの親権をめぐる裁判で、弁護士がついていないために、行き違いがあって、裁判官も原告(黒人女性)も混乱しているケースだった。傍聴席には、アドボケートとして、ボランティアの若い学生たちの姿が見られた。大半のDVケースでは弁護士がつかないが、こういったケースをロースクールの学生たちが担当している。実際には、学生たちの力量や授業期間のため、学生たちが援助できるケースはかなり限定されるが、それでも、とても役立っているという評判だった。また、公的サービスと多種多様なボランティア団体が力を合わせて被害者支援をしていることも印象的だった。

 たとえば、ワシントンD.C.の裁判所内にあるDV法廷には、「DV法廷受付センター」というのがある。これは、「1ヵ所ですべて揃うショッピング・センター」をモットーにDV被害者の支援を受け付ける窓口で、@NGO緊急家族関係プロジェクト ANGOワシントD.C.DVコアリション(DCCADV) BワシントンD.C.公設弁護士事務所 C警察受付センター駐在所 D合衆国検察局被害者証言支援係の受付ができる。このセンターの存在を「私の第一子」と愛情をこめて呼んだデボラ・エプシュタイン教授は、ジョージタウン大学のDVクリニックで教えている。彼女は、80年代前半、学生だった頃に、DV被害者を支援するNGOを立ち上げ、ロースクール卒業後弁護士になり、93年から同大学で教育に携わるようになった。だからこそ、裁判所と密に連携して、援助が必要で可能なケースをロースクールにつなげることができるのだ。教育者、研究者、NGO活動家、政府のアドバイサーと幅広い仕事をこなす女性で、実践家としての情熱が伝播してきて、なぜか血が騒いだ。

 NGOの連合体であるDCCADVのプログラムのひとつであるDV被害者支援プログラムも訪問した。一番印象に残っていることは、現在、35万ドルの予算で動いているが(30万が連邦政府から、5万ドルが寄付)、D.C.からも助成してもらえるよう、2つの経営コンサルタント会社を入れ、5年計画で経済戦略を立てているとのこと。日本の民間機関の経済基盤をどう築いていけるのかが課題である。また、お話をしてくれたケン・ノイスさんは、自分は全米唯一のコアリション男性幹部、男性が関わることが大切だと強調していたことも心に残っている。本当にそうだ。

 ボストンでは、ケンブリッジ病院暴力被害者支援プログラム(VOV)を訪れた。アドボケートの春海葉子さんにお話をうかがったが、日本よりは格段に進んでいるように見えるアメリカの法制度の不足や矛盾が、被害者の視点から裏返しに見えて興味深かった。

 また、1970年の設立以来、低所得者層に無料の弁護士サービスと安価なカウンセリングを提供してきたNGOであるCLSACC(コミュニティ・リーガル・サービス&カウンセリング・
センター)の訪問も印象深かった。VOVもCLSACCも、リーガル・クリニックとは違い、長期化した複雑なケースを援助しているのが特徴。紙面の関係上、詳しくは割愛するが、その他、MSPCC(マサチューセッツ子どもへの残虐行為防止協会)の面会センターや家族法を専門にするオリバー・フォークスさん、スーザン・エルスンさんの弁護士事務所なども訪問して、インタビューした。

 今回、私の役割は、とくにDV支援をめぐって、法と心理の連携のあり方を調査することだったが、全体的な印象としては、これはなかなか難しいという結論を得た。国境を問わず、専門家たちが他領域の専門家とコミュニケーションをはかり連携していくことは、非常に困難なようだ。現実的な理由はいろいろあるのだが、中核は専門家のプライドや独りよがりであるように思えた。4月より、立命館大学の応用人間科学研究科の授業として弁護士さんとともに「司法臨床」の講義を担当する。日本でも、今後、被害者の裁判支援は重要な課題になってくるだろう。もっともっと勉強し、職種を越えて連携していける専門家たちを育てたいものだ。

(村本 邦子)