スタッフエッセイ 2014年1月

娘との上京物語

前村よう子

正月明けの帰省ラッシュがピークを迎えた日に、娘と二人で東京行きを敢行した。観たい芝居やコンサートがある訳でも無く、特に行きたい場所があった訳でもないが、「私、旅行したい。どこでもいいから、とにかく旅行したい」という娘のリクエストで突如決まった旅だった。

なぜ行き先を東京にしたのか。娘が「思い切り東京らしい場所に行ってみたい」と言い出したことがきっかけだった。ならばレトロな場所に泊まって、レトロな場所に出向いて、のんびりまったり過ごそうということになったのだ。

大学時代は研究室に泊まり込んで卒業実験に明け暮れ、就職してからは土日もなく、有給どころか普通の休日さえも休めず早朝から深夜まで働いてきた娘。昨年末、労働基準監督官を主人公としたドラマがテレビ放映されていたが、「労働基準法ってなぁに?」とでも問いたくなるような職場で、とうとう燃え尽きてしまった娘。その娘が行きたいというならと決めた旅でもあった。当初は浅草や上野などでのんびりするつもりだった。しかし、昨年末に起こったある出来事をきっかけに、二つの場所にも行こうということになった。靖国神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑だ。

靖国神社は、1月4日だというのに多くの人でごった返していた。参道にはたくさんの露天商が建ち並ぶ。一見、他の神社と違わないように見えるその場所で、既に娘は何かを感じとっていたらしい。参道の終点辺りを右へ進み、遊就館の展示も上映されたフィルムもしっかり見た。その後で、千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に向かった。

千鳥ヶ淵はとても静かだった。絶え間なく訪れる人がいるけれど、閑かな空間だった。自然と菊の花を手向けることができた。太平洋戦争に徴集され、シベリア抑留を経て帰国したことを最期まで私に隠して逝った母方の祖父のことにしばらく思いを馳せた。

観光らしい観光はほとんどしなかった東京行きだったが、思うところが大いにあったらしく「ニュースだけではわからなかったけれど、体感してみて、なるほど、だから違和感があったのだなと判明したことがたくさんあった。理系をよいことに社会科系の勉強はして来なかった私でさえ『この部分には触れているのに、なぜこの部分には触れていないの?』とたくさんの疑問符が出て来た。仕事に復帰したら、この思いを活かしたい」と、その夜は宿泊先で深夜まで語り明かした。

この先、楽しむことが目的の旅行にも、どんどん娘を連れて行ってあげたいと思うが、今回の東京旅行はこれで良かったのだろう。私にとっても、一人でこの二箇所を巡って様々な思いを心の中に閉じ込めておくだけではやりきれなかっただろうから。

(2014年1月)