スタッフエッセイ 2013年9月

おもてなしの心

津村 薫

オリンピック東京招致が決まった。この是非について感じることはここでは書かないことにしよう。加熱していた報道もいくぶん落ち着きを見せてきたが、プレゼンで用いられた、「お・も・て・な・し」という言葉に注目が集まっていた。

援助に大切なものとして、「援助技術」、「コミュニケーションスキル」と並び、「ホスピタリティ」が挙げられる。「おもてなしの心」と訳されるが、「あなたが大切です」という思いが伝わるものであること、これが重要なのだと思う。援助者のはしくれとして、あちこちで出会う「おもてなしの心」に「おー、見習いたい」と頭が下がる思いがすることがあるので、そのひとつを書いてみよう。「我以外皆我師」とは本当によくいったものだ。

あちこちに出張するため、さまざまなホテルに宿泊する。先日出張で行ったホテルが「このホテルって、私が泊まった中で、きっと堂々の第一位!」と思うほど、おもてなしレベル高っ!と驚く居心地の良さだった。最寄の新幹線駅からそう遠くなく、景色も温泉も抜群。ただ、ホテルの建物は古く、昭和を感じさせるものであるので、豪華さで心奪われるといった類のものではない。ただし、お掃除は本当に行き届いている。そして、何か居心地が良いのだ。

タクシーから降り立ったその瞬間、さっと駆け寄り荷物を持ってくださり、玄関へとスタッフがご案内くださる。このサービスをされるホテルは少なくないが、笑顔といい、言葉がけといい、「楽しんでいただこう」「居心地良く過ごしていただこう」という温かい丁寧さが伝わってくるのだ。

チェックインして部屋に入るなり、スタッフがさっとお茶を運んできてくれた。これにもびっくり。部屋にはちゃんとポットやお茶のセットが用意されているのだ。たまたま、この人たちが感じの良い人なのか?と思っていたら違った。通常、「このスタッフの人は感じが良かったけど、あのスタッフの態度はちょっと残念かな?」みたいなことがあるものだが、帰るまでの一泊二日、多分10人くらいのスタッフと接する機会があったと思うが、「ありゃ、この人は・・・」という人に全く会わなかったばかりか、どの人も本当に感じが良かったのだ。

スタッフ皆、持ち場全体が視野に入っているというのか、少しお客が「えーと」という思案顔や何かを探すようなしぐさを見せただけで、必ずスタッフがさっと駆け寄り、親切に案内している。ひとつひとつのことはとても地味で堅実なものだ。派手なパフォーマンスや豪華な接待で魅せるのではない。「ほっとする」「ここへ来て良かった」「心地良い時間だった」「また来たい」、そんな気持ちで過ごしていただこう、笑顔でお帰りいただこう、それがどのスタッフからも伝わってくることが新鮮な驚きだった。

慇懃無礼という言葉がある。言葉遣いや態度は決してぞんざいではなく丁寧だけど、その態度はちょっと配慮に欠けるよね。事務的過ぎるよね。こっちの立場に立ってくれてないよね。それってなんだかな・・・という思いをさせられることがある。といっても、これもひとつひとつが小さなことだ。苦情を言うレベルの話ではなく、すぐに記憶から抜け落ちていたようなことだった。もう少し「ひどいやん」というレベルになると、親しい誰かに「こんなことあってん〜。感じ悪〜と思わんー?」と愚痴って終わる。こんな小さな小さな「あれ?」という違和感を感じないホテルに出会ったことは殆どなかったことに今回気づかされたような気がした。

チームワークの良さについても感じられるホテルだったなあと思う。職員同士のコミュニケーションがぎすぎすしていたり冷淡なものだと、そこにいる自分まで気分が悪くなるが、そのホテルには、皆が力を合わせて良い仕事をしようといった繋がりやまとまりが感じられ、それが居心地の良さをさらに高めてくれた。

最大級のおもてなしには最大級の賛辞を。ネット申し込みをしたホテルだったので、利用客専用口コミのコーナーに「素晴らしい」と書いた。他のお客さんからも「こんなホテルは初めてだ」と口々に誉め称える言葉がずらり。さすがだ。

私自身も、おもてなしの心を大切にしたいものだ。お忙しい中、貴重な時間を割いて講演や研修にご参加くださった方たちにとって有意義な時間となるよう、「来て良かった」と思っていただけるよう、これからの仕事や生活に「よし役立ててみよう」と変化を心がけていただけるよう、心をこめて良い時間にしたいものだ。

「あなたが大切です」が伝わる講義ができれば。

(2013年9月)