スタッフエッセイ 2013年5月

真夏の大冒険

渡邉佳代

通勤途中の電車の車窓から、くっきりとした日差しの中で木々の緑がこんもりと茂り、色濃くなっていくさまに、もうすぐ夏がやってくることを感じている。今年の夏は、1つお楽しみがある。田舎から、小学5年生の姪と、小学2年生・年長さんの甥が3人で、大阪の我が家にやってくるのである。これまでに子どもたちには、私が住む街のことを尋ねられることが多かった。「佳代おばちゃんが住んでいるオオサカって、日本にあるん?」「日本語通じるん?」「飛行機はどうやって山の上を飛ぶん?」「オオサカの子どもって、どんな子なん?」「オオサカの人って、何食べてるん?」などなど。

この春に、ひょんなことから入院した父のお見舞いがてらに、子どもたちに会った時も似たような質問の数々が飛んできた。今までも「1度、3人で遊びにおいでよ!」と誘ってきてはいたものの、なかなか3人ともウンとは言わず、その時も何気なく「来てみれば」と言ったのだった。思いもかけず、「行く行くー!!」の大合唱になり、ママもその場で乗り気になって、あれよと言う間に、大阪行きプロジェクトがその場で結成されたのだった。直前に「佳代おばちゃんの家の近所には、世界で一番おいしいたこ焼き屋さんとクレープ屋さんがあるんだよ」と教えたことが決め手だったのかもしれない。

それからは、この春にメールを覚えたばかりの上の姪が隊長となり、3きょうだいで話し合ったこと、行きたいところ、食べたいものをメールで知らせてくる。上の姪の希望は「佳代おばちゃんのおススメなら、どこでも行きたいです」、真ん中の甥は「洞窟の温泉!」、下の甥は「USJ」とのこと。洞窟の温泉とは、スパワールドのことを指すようだが、これまで私が話したことをよく覚えているものだ。希望の1つひとつにも、3人それぞれの個性が見えていて、とてもかわいらしい。何にせよ、3人だけで飛行機に乗って、パパやママと離れてガイコクみたいなオオサカに来るなんて、大冒険の夏になるだろう。

先日、森見登美彦の『ペンギン・ハイウェイ』を読み終えて、清々しい読後感とともに、真夏の大冒険について思いを巡らせた。映画や小説、絵本でも、主人公が真夏に大冒険をして成長していく物語が、私は昔から好きだった。今、それらをここに挙げることはできないが、特に小学生の高学年の頃、キングの『スタンド・バイ・ミー』を本がボロボロになるまで夢中で読んだことは覚えているし、上京する時も持参した大切な本だ。主人公の少年たち4人が、森に少年の死体を探しに行く有名な小説だ。

今でも、キングが描く真夏の少年たちの汗だらけの体と熱い息遣い、土埃で白っぽくなった日差し、飛び込んだ水たまりに蠢く蛭、夕立の雨の匂いや森が揺れる様子など、目に浮かぶように思い出せる。死体探しの旅は、少年たちが大人になっていく通過儀礼のようでもあり、少年たちが自分の生きる世界をリアルに肌で触れて、自分の生を受け入れていく冒険に、心を躍らせて読んだものだ。夏という季節も物語を構成する要因の1つとして、とても良い。夏はやはり私にとってワクワクして、何か起きそう!という予感と期待でいっぱいになる季節である。

自分自身の真夏の大冒険を思い浮かべると、保育園頃に「おじいちゃんちに行く!」と突然思い立って、1人でグングンとまっすぐな田圃道を突き進んだことがある。汗だくになって、日差しが強くて白っぽくなったまっすぐな道を行けば、世界の果てまで行きつけるように思った。中1の夏休みに、近所の英会話の先生たちと一緒にトロント郊外でホームステイさせていただいたことも大冒険だった。ナイアガラの滝の迫力と、水しぶきにかかるたくさんの虹の数々を忘れない。高校生の時はジュニアリーダーの全国大会のために1人で三浦半島に行ったこと、その時のキャンプファイヤーに照らされたオレンジ色の皆の顔、18きっぷで乗り継いで、そこで知り合った人たちとその後に静岡県三島市に集合したこと、蚊に刺されながら皆で小学校の渡り廊下で野宿したこと。

今思えば、アホだな〜と呆れてしまうが、真夏の富士山を見て「赤茶けたとてつもなくデカいあの山は何だろう?」と、電車に乗りながら私は不思議に思っていたのだ。それまでに富士山と言えば、テレビや写真で見たことのある、頂に白い雪を乗せた青い富士だったのだ。世界は広く、そして大きい。自分の家と学校だけが自分の「世界」だったのが、世界とは何と大きく、そしてリアルで、夏の富士山は赤茶けているんだろう!と驚いたものだ。真夏の大冒険は、自分の目で、耳で、皮膚で、五感で、ぐんぐん世界を吸収して、夏休みの終わりには少し鼻息を荒くして、世界の秘密に少しだけ触れたような気がした。

夏の大冒険の記憶は、自分の中の特別な場所に保存されているのかもしれない。その時の自分の息遣いや胸の鼓動が思い出されると、今でもムクムクと夏の入道雲のように元気が湧いてくる。3人の姪や甥たちの夏の大冒険は、どんなものになるだろう。お盆の1番込む時期にスパワールドとUSJかー、と、30代も半ばを過ぎた今の自分は少し目眩がしそうだ。でも、子どもたちにはオオサカの大冒険を少しでも楽しんでほしい。子どもたちよ、世界は広く、そして大きいよ。そんな夏休みの1コマを一緒に過ごせたらいいな、と、今から楽しみにしている。

 

(2013年5月)