スタッフエッセイ 2012年7月

「親って・・・」

前村よう子

子どもが乳幼児だった頃、「こんな時期は今だけだから、思い切り育児を楽しみなさい」と人生の先輩方から異口同音に言われたが、「一日も早く手がかからない状況になってほしい、どんどん成長してほしい」というのが私の実感だった。

子どもが保育園を卒園する時、「これでようやく送り迎えから解放される。早朝や夜間の仕事でも引き受けることができる」と思ったが、その思惑はひと月もしないうちに打ち砕かれた。小学校1年生の帰宅は早い。子どもが放課後に自宅で一人なんて、想像もできない。当時、地域の働く親たちで自主運営している学童保育がなければ、仕事を続けることは困難であった。この時、保育園の存在を改めて有難く感じたものだった。そしてやはり私は思ったのだ「一日も早く成長してほしい」と。

子どもが中学生になった頃、「もう少しゆっくり成長してくれないかな」と思い始めた。おそらく、心身共にめざましく成長する子どもを前に、親離れ子離れを予感したのだろう。それまで感じなかった寂しさを、ふとした瞬間に感じることが増え始めた。

子どもが高校生になった頃、子ども自身の反抗期も落ち着き、少し距離をおいた上で、再び母と子としての絆を結び始めたという実感があった。教え子たちもこんな風に考えているのかなと、子どもとの関係を冷静に振り返ることが、日々の仕事に活かせた。

子どもが大学生になった頃、本当に子育ての手が離れたなという実感があった。大学やバイト先でどんどん人間関係を構築し、私には未知の領域での学びを深めている子どもを、一人の人として「スゴイな」と思えるようになった。

そして子どもが社会人となった今、これまでの子育て人生の中で一番不安な日々を送っている自分に驚く。子どもは、私や夫と同じく早朝に家を出て職場へ向かう。しかし帰宅は、片道1時間半から2時間の通勤時間がかかる私や夫よりも遅く、22時過ぎ以降となる。疲れ切っての帰宅なので、「お腹は空いてるけど、食べること自体がしんどい」と夕食を取らず、そのまま朝まで眠ってしまう。中学校教員なので、基本的には土日は休みのはずだが、休んでいる姿は、4月からの3ヶ月間で2〜3回くらいしか見ていない。部活の顧問だから土日は返上なのだという。

中学と高校との違い、公立と私立との違いはあれど、私とは同業。新人教員がどれほど忙しいのかは想像にかたくない。同僚の若手を見ていても、「やっと教員になれたのだから」と皆、無理を無理とも言わず、心身ともに崖っぷちギリギリのところで仕事をしている。生徒に向き合おう、授業研究も怠らずに頑張ろうとする生真面目な若手ほど、心身にひずみが出やすくなる。

同僚であれば、いくらでも相談に乗れる。実際、若手を見ていて「危ういな」と感じた時には、私や他のベテラン非常勤講師が相談に乗っている。子どもが社会人となって以来、職場の若手の話を聞きながら思うのは「私の子どもには、こういう存在がいるのかな」ということだ。

同僚ならいくらでも言える。「そこまでしなくてもいいんよ。自分一人で抱えたらつぶれてしまうよ。たまには、休まなきゃ。美味しいものを食べて、思い切り愚痴を言っていいんよ。誰かに代わってもらったり、助けてもらっていいんよ。偉そうなことを言ってる諸先輩方だって、新人の頃はできないことがいっぱいあったし、失敗もしてるし、誰かに迷惑をかけてるし、フォローしてもらってるし。もっと甘えていいよ。休みの日くらい、休まなきゃ」と。

社会人になった子どもに対してだと、なかなか言えないなと実感する日々である。せめて、のどごしの良いあっさりした、それでいて身体にも良いものを作って、少し離れた所から見守るしかないのだろうな。親って本当に、いつまでたっても・・・と思うこの頃である。

(2012年7月)