スタッフエッセイ 2012年6月

みやげ話

村本邦子

みやげ話という言い方がある。私自身もあちこちに行くことが多いので、周囲の人たちに旅先の写真を見せ、おもしろかった体験を話して聞かせることは多い。楽しかったことや驚いたことなど印象深いエピソードを身近な人たちと共有したいと思うからだ。でも、最近、本当におみやげ話が嬉しい人はどのくらいいるんだろう?と考えるようになった。もしかすると、本当はあまり興味のない人や、むしろおもしろくない人だっているのかもしれない。行先や関係性にもよるだろう。年賀状の写真に似ているのかもしれない。

娘がヨーロッパから帰ってきた。今回ほどおみやげ話を心待ちにしていたことはない。今や私がまだ行ったことのない未知の国々を経験してきた貴重な人だ。ブルガリア、オランダ、ベルギー、モロッコ、トルコ・・・。セルビアやボスニアなんて、いったいどんな国なのか想像もつかない。カミーノ・デ・サンチアゴ(サンチアゴ巡礼)にも興味津々。いったい何から聞けばいいのやら。

「旅先で出会った女たちで素敵だった人たちは?」一番は、30歳のインドネシア人、カミーノで一緒だった女性だそうだ。ジャカルタで生まれ、イタリアにインターンシップに行って、そこでファッション関係の仕事を見つけ、ミラノに暮らす。休暇ごとに「カウチ・サーフィン」(要するに、ネットで旅人にソファを提供しあうサイト)であちこちの国を訪れている。バスク地方では、ブータンからの留学生で男の子2人がカウチを提供してくれてとても親切にしてもらったそうだ。さすがはブータン。

もうひとり、アルゼンチンから来た年配の女性ともカミーノの道で一緒になったそうだ。自国には子どもがたくさんいて、毎日、家事や子育てが大変すぎるから、休みを取って、夫に家のことを任せ、一人で旅している格好いい女性。日本ではちょっと考えにくい。良くも悪くも我が強いので、時には一緒になった人たちとけんか腰になることも。

不思議すぎるのは、日本からブルガリアに一人で来ていた20代の女の子。英語もまったく話せず、おどおどと困惑しながら何でも娘に代弁を頼んでくる。将来の夢は国際NGOで働くこと。だったら英語くらいは勉強してきた方がと思うけど、それにしても、そんな状態で一人、ブルガリアに辿りついたということだけでも驚異ではある。

「じゃあ、嫌な目に遭ったり、怖い目に遭ったりは?」何もなかったわけではないが、「でも、結局のところそれほどひどい目には遭わなかった」そうだ。世の中にはどこにでも悪い人はいるし、下心のある人たちはたくさんいるが、だいたいパターンは決まっていて(たとえばマッサージかダンス)、きっぱりとノーを言えば、ほとんど大丈夫とのこと。なるほど。なぜかイスタンブールでは、宝石屋さんで話しがはずみ、お茶をご馳走になって、アクセサリーを買おうと思ったら全部タダでくれたのだそうだ。それでおしまい。奇妙な話だ。

そして、ほとんどの場合、出会う人たちがみんな親切にしてくれ、かわいがってくれるそうだ。それもそうだろう。好奇心で眼をキラキラ輝かせた若い女の子が一人で旅をしていれば、たぶん、誰もが親切にしたくなるだろう。そのうえ、出会ったたくさんの人たちと人生を語り合い、いつも常に素敵な言葉をもらってきたとのこと。なかなか良い人生ではないか。親としては無事に帰ってきてくれたことだけで十分だが、娘を育ててくれる世界に感謝である。私にとっては貴重なみやげ話、当分、尽きそうにない。

(2012年6月)