スタッフエッセイ 2012年5月

おとなになった「子ども」と暮らす

森葺a代

この春、我が家ではちょっとした変化があった。

9年前、夫が単身赴任となり、わたしは小・中学生の子どもたちと3人で暮らしていた。その後も夫の単身赴任は続き、娘が大学進学した後は5年間、高校生の息子との二人暮らしとなり、そしてその息子(20歳)もこの春からひとり暮らしをはじめた。必然的に、わたしも一人暮らしになると思っていた矢先、大学生活を終え、アーティストになりたいという夢を抱きつつ、「まずは足元を固める!」と、地元に戻ってきた娘(23歳)との、束の間の二人暮らしが始まった。

「お風呂場と洗面所、ピカピカやで!」「引き出しの中、整理しといた—」「電話もキレイになったやろ〜♪」「台所のシンク、きれいになったん気ついた?」「調味料入れもきれいにしようっと」などなど、彼女は仕事が決まるまでの間、せっせせっせと家の中をきれいにしてくれていた。理由を聞いてみた。「これから自分が住む所やし、きれいにしたいから」というほかに、「もう、ええおとなやのに、お世話になるから」と言う。

そういえば、この春からひとり暮らしをしたいと言い出した息子。実は、大学進学時に一人暮らしを勧めたのだが実行しなかった。大学3回生になると就職活動も始まる。初めての一人暮らしと就活が重なると大変では?と思い、理由を聞いた。「通学疲れるから」というほかに、「もう、20歳やし。親に世話してもらうのもなんか違うなと思って」と言うのだ。

この子どもたち二人の返答に、「へぇ〜」と思った。 

わたしは、これまで一人暮らしをした経験がない。生まれてから26歳で夫と結婚するまで、当たり前のように、生まれ育った実家に居て親に世話になりながら暮らし、何の違和感もなく自宅から大学に通い、仕事に行っていた。お世話になっている、親にお世話になるからという感覚など微塵もなかった。

我が家の子どもたちは「おとな」になり、同時に「子どもを育てる」、「子どもの世話をする」という私の母親役割も終わった。そして、娘とのこれからの生活を考えた。今後は自立したおとな同士ハウスシェアのためのルール作りが必要だと。

娘は学生時代、留学先で男女4人でルームシェアをしながら1年近く暮らした経験がある。それを参考にしつつルールを作るのは簡単だった。食事、洗濯、掃除など、基本的に自分のことは全部自分で責任を持って行なえばよいのだ。もちろんリビングや台所、お風呂、トイレなど共有部分もあるので、そのあたりは、お互いが気持ちよく暮らせるようにシェアしながらやっていく。そして、家族として一緒に暮らしているのだから、「ついでに」や「お互いさま」も大切にしたい。

しかし、これがなかなか難しい。

これまで、様々な場面で世話しながら子どもを育ててきたわたしには、「自分のことだけをする」ということに慣れていないし、娘のしていること、娘のやり方がついつい気になる。そして、ついでにと娘の分をやってしまう。そうなると、時にはついでにわたしの分もやっておいて、となり、徐々にルールが崩れていく。簡単なようだが、ルールを守るのは結構難しいのだ。娘は娘で、学生時代5年間ひとりで生活してきた。生まれ育った実家とはいえ、母親のルールで回っている所での生活はそれなりに窮屈かもしれない。

だれにとっても、変化を受け入れそれに対応するということは、エネルギーが要ることだ。娘との二人の生活は、まだ始まったばかり。お互い戸惑うこともあり、何かでぶつかった時は話し合うが、お互いユーモアでかわせるようにもなった。おとなになった娘との生活は、なかなか快適だ。

(2012年5月)