スタッフエッセイ 2011年6月

住まいを楽しむ

渡邉佳代

引っ越して3ヶ月、少しずつ新居に慣れてきた。引っ越し前に発生した旧居の水漏れ対応と並行して、仕事の繁忙期に、新居の家電や家具を揃えるのは本当に大変だったが、新生活を楽しみにして何とか無事に引っ越しを終えた。とは言うものの、新年度に新しい職場が1つ増え、なかなか新居を味わう時間がない。朝早くに家を後にし、帰宅するのはいつも深夜で、寝に帰っているようなもの。それでも家に辿り着くとホッとする。

そうした新生活を予測していたわけではないが、新年度の前に、新居の各部屋のアレンジには力を入れていた。元々1人暮らしを始めた時から、家具は丈夫で機能的であれば良いと思い、さほど思い入れも持たずに生活をしてきたのだが、せっかく一新するのだからと、何度も家具屋さんに足を運び、家具のカタログを眺めた。

最初は何からどう決めて良いのか分からず、面倒臭さで一杯だったが、家具屋さんはさすが住まいのプロ!話を聞いていて面白いのだ。これまで意識してこなかったが、家具の木材1つを取っても様々にあること、年月を重ねるとその色や風合いが変化していくことなど聞いていると、縁あって我が家にやって来る家具(=1本の木の命)なんだなぁ、と感慨深い。

やると決めたらとことんやってしまう性分だから仕方ない。あれこれ家具を決め、カーテンやカーペット、布団カバーなどの色合わせを楽しんだ。各部屋のコンセプトを決め、それに合ったイメージで家具を置いていく。リビングは初夏の草原をイメージして、流れるような若草色のカーテンに、ふかふかのベージュのカーペット、それに真っ白なソファを。リビングとつながっている私の仕事場は、草原の中の小さな湖をイメージして、紺碧から空色のグラデーションが入ったカーペットを。寝室のコンセプトは、ずばりダークナイト!濃紫色のカーテンに、ダークブラウンのベッドやチェストを合わせて、深い森の夜をイメージする。

それぞれの部屋の用途に合わせ、気持ちが落ち着いたり、清々しい気持ちになったり、ゆったりと安らげるよう、アロマの香りを合わせていく。う〜ん、我ながら美しい部屋だと自画自賛!ほんの少しの時間でも、住まいを楽しみ、味わえるように最大限の工夫をした甲斐があり、引っ越した今も各部屋のイメージを楽しんでいる。色と香りの合わせ方が良かったのか、草原の清々しい風や、深い森の動物たちの蠢きが聞こえてきそうで、毎日エンパワーされている。

特に気に入っているのは、家具屋さんで偶然出会ったギャッベの敷物。大きなサイズはとてもじゃないが手が出せず、私が選んだのは座布団サイズのミニギャッベだ。元々敷物に詳しくないのだが、ほぼ一目惚れでの購入だった。素朴な色合いと不揃いなデザイン、自然のモチーフがかわいくて気に入ったのだ。

ギャッベとは、ペルシャ語で「粗い」という意味で、毛足が長く厚めに織られた手織りの絨毯のこと。イランの砂漠に暮らす遊牧民族カシュガイ族の女性たちが、彼女たちと家族同様に暮らす羊の毛を自然の草木で染め上げた絨毯である。デザインも織り手の即興で、彼女たちが目にする風景や世界、願いや生き方が織り込まれている。広大な砂漠や風に吹かれる草原、深い夜空と橙の夕日に染まる大地、木々や動物たち、人々の生活が小さく織られている。色やモチーフにも、彼女たちの様々な願いや意味が込められているという。

そんな説明を家具屋さんで聞き、一気にギャッベの魅力にはまってしまったのだ。厳しい自然と共存し、彼女たちの生活とともに育まれ、様々な人の願いや思いが込められたものだからだ。家に帰って調べると、カシュガイ族の女性たちは、娘が嫁入りする際に女性たちがギャッベを何枚か織って持たせるという。女性たちの知恵やつながりを感じたのか、私がギャッベに一目惚れした理由が何となく分かるような気がした。

さて、この座布団サイズのミニギャッベは、私の仕事部屋の座イスに敷いている。何としても元気に仕事をしていきたいものだ。こうして新居に揃ったものを眺めてみると、今の私に必要なものばかりである。自然や人とのつながり、温かさ、豊かな知恵、生命力などなど…。

住まいが荒れていると、仕事をするのがつらいと昨年度末に気づいた。新居に移り、忙しい合間にも掃除をするようになった。忙しくなるとまず手を抜くのが掃除であるが、何とか今のところ、合間を縫って住まいを整えている。生活を大切にしようとすると、自然と食事や睡眠にも注意するようになった。あまり時間がない新生活ではあるが、それでも住まいを楽しみたい。まずは自分の足をしっかり地に着けて踏みしめていくことを、今年度は大切にしたいと思う。

(2011年6月)