スタッフエッセイ 2011年2月

朝のジョギング

村本邦子

何を隠そう、ひょんなことから朝のジョギングを始めた(隠すどころか自慢してる!?)。自分がジョギングするなんて、元旦には思いつきもしなかったことで、新年の抱負にさえ入らなかった。

1月2日、まだ読んでいない村上春樹のエッセイ集を数冊鞄に入れて、飛行機に乗った。たまたま最初に読んだのが、ランニングについてのエッセイ(春樹は相当にシリアスなランナーである)。長距離走は瞑想的であり、女神で言えばアルテミス的である。「そう言えば、昔、私も走っていたことがあったな」と、その感覚を懐かしく思い出していた。奇しくもその夜は中学時代の同窓会。私のなかで、すっかり思春期気分が高まって、「ちょっと走ってみるのもいいかもしれないな」なんて、(その時は)非現実的に思ったのだ。

そうこうするうちに、年末年始で4キロも体重が増えたことが判明。「ちょっとやばいかなぁ〜」と思いながら、周囲にブツブツ言いふらしていると、ある人から「100歳まで生きようという人にとって、中年になってから太るのは用心した方がいいよ」と厳しい指摘を受けた。たしかに・・・。体重なんて気にしないで好きなだけ食べていた若い時とは、もう体が違うのだ。何か運動でも始めた方が良いかな?スイミング、それともジョギング?

「とりあえず、今の私にどの程度走れるのかしら?」と一度だけジョギングを試してみることにした。大人になってから、どういうわけか、ちょっと走って心拍数が上がると眼が腫れ上がるという怪奇なアレルギーにかかったりしていたので、走るのは実に30年ぶりだ。自分が走るなんて半信半疑・・・、というより九割九分は疑惑のまま走ってみた。やってみると、驚いたことに、結構走れる自分がいたのだ!この調子ならいくらでも走れそうと感じつつ、とりあえずそのくらいにして様子を見守ったが、筋肉痛さえ起こらなかった。毎日、重い荷物を持って文字通り走り回っている今の私の生活スタイルでは、それだけで相当に足腰鍛えていたのかもしれない。

そんなわけで、平気で10キロ走れてしまう自分にすっかり気を良くして、朝、6時に起きて走っている。年をとってからは若い時のようによく眠れないので、どっちみち早くから眼ざめて、布団の中でダラダラしていたのだ。「朝から走っていたら疲れちゃってお昼、元気がなくなるんじゃないかしら?」と思っていたが、そんなことはない。むしろ、体がしゃんとして元気なくらいだ。これが、「リラクセーション」ではなく、「アクティベーション」の効果なのだろう。

あっと言う間に1週間が経過し、「これなら続けられそう」と自分を信頼したところで、ジョギング用のシューズとウェア、そして、iPodとNIKE+を導入。ナイキの靴に入れたセンサーとiPodが連動して、ジョギング・データをパソコンに送ってくれるというすぐれもの(最近、ハイテクづいている私だ。と言っても、iPodの電源の入れ方がわかるまでに2週間近くかかってしまったけど)。

実際に走ってみると、世の中には、走ったり歩いたりしている人々が案外たくさんいることがわかった。みんな、それぞれに黙々とマイペースで、抜かす人、抜かされる人がいても、とくに気にする人はいない。たぶん、選手を除けば、他者と競う人はどこにもいないだろう(あえて言うなら、自分への挑戦があるだけだ)。黙々とそれぞれが自分に向き合う姿は、まったく人生そのもののようで、なんだかすごくいい感じ。だんだんと顔見知りもできるし、しかも、人々のあいだには、なんとな〜く、ある種の仲間意識、コミュニティ感覚が感じられる。

それから自然との出会い。暗いうちに走り始めると、走っている最中に陽が昇り始め、走り終える頃には、すっかり朝が始まっている。ドラマチックな空の色の変化や川の照り返し、鳥の群れやそびえたつ橋の姿、ビルのきらめきと、自分が壮大な自然のドラマの中心にいるような錯覚を覚える。毎日、梅のつぼみが少しずつ膨らんでいく様子にさえ気づくことができることも嬉しい。なぜだかわからないけど、ジョギングしていると自分の体の様子にも敏感に気づくことができる。不思議なものだ。

というわけで、なかなか毎日というわけには行かないが(6時より早くは起きたくないので、朝、早く家を出なければならない日はパス)、走り始めてもう3週間になるが、自分の変化としては、何と言っても自信が増した(これ以上いらんやろって気がしないでもないけど)。朝6時に起きて10キロ走る自分だと思うと、「何があっても怖くない!」と強気になれる(だって、ちょっと前まで、朝6時に起きて10キロ走れと言われても、そんな怖いこと絶対にできるはずがないと信じていたから)。それから、肩凝りが少しましになって、寒さに強くなった気がする(血流が良くなったんだと思う)。

いろいろ調べてみると、ジョギングほど脂肪燃焼に効果的なものはないらしい。最初の3か月は変化ないらしいが、3か月を過ぎた頃からメキメキと効果が表れ、体重が減るらしい。春の私はすっかりnice bodyのはず。う〜ん、楽しみ!

(2011年2月)