スタッフエッセイ 2010年9月

大阪街歩き

渡邉佳代

一昨年くらいから、生活の拠点を大阪に移し始めている。私と言えば京都、京都と言えば私、と勝手に自称するほど京都の街が好きで、それだけで大学を決めたくらいである。学生時代から十数年間を京都に住み、緑や寺社仏閣・史跡の多さ、京都に住む人の持つ雰囲気、音楽や喫茶店、昔ながらのライブハウス、映画館や銭湯などなど、こよなく愛してきた。このまま京都に住み続け、30代からの百万遍、40代からの松ヶ崎…と、これまた勝手に各々の土地に憧れていたのだが、人生どう動くか分からないものだ。

大阪と言えば、学生時代から遊びに来たのは数回に過ぎず、研究所に勤め始めてからも、京都と天六を行ったり来たりするだけであった。嫌いではないのだが、何というか、大阪は街や人の持つ力がとても大きく、パワフルで尻込みしてしまうというか。学生時代に京都に住み、就職してから大阪に移り住んだ友人たちは、「住めば都!面白い街だよ」とは言うものの、さぁ、どうなることやら。それでも、京都で仕事をしているので、京都から完全に離れてしまうわけではないという思いは、とても心強かった。

旅に出た時にそうであるように、私はまずその街に馴染むのに、下町から歩き始める習性があるようだ。その土地に住む人の息づかいや、街の持つ力、匂いを確認したいのかもしれない。大阪のあちこちを歩き回り、いくつか自分が馴染む街も見つけてきた。

まずは、松屋町筋の玩具問屋街。帰省する際に、甥っ子や姪っ子たちのお土産を探しに、何度か足を運ぶようになった。昔ながらの玩具や駄菓子があって、何とも懐かしいものばかり。時間を忘れて玩具に見入ってしまう。甥姪たちには、ブーブークッション(座るとおならのようにブーッ!と鳴る)や、簡単な模型飛行機が好評だった。

その近くの空堀商店街で、八百屋や魚屋を覗いたり、食べ歩きをするのも面白い。何より子どもたちが元気で、公園には、いつも小さい子から大きい子まで、体いっぱいに遊び回っている。時々、足を休めて、子どもたちと何気なく会話できるのも、ほんわかいい感じ。この界隈は、街再生プロジェクトに若い人たちが取り組んでいて、町家を改造して雑貨屋やカフェにしたり、アーティストたちの展示会に使ったりして、面白い試みを始めている。ちょっと細い筋に一本入っただけで、かわいらしい雑貨屋に出会うこともある。

これからの季節に楽しみなのだが、モツ鍋を作るのに、鶴橋まで行って丸腸やシマチョウ、キムチを買い込むのもいい。韓国の民族衣装チョゴリの色とりどりの美しい布を眺めながら、チヂミや豚足を食べ歩きするのも楽しみのひとつ(やっぱり食べ歩く)。

一番気に入っているのは、新世界界隈。ここは学生時代から何度か来ていて、ジャンジャン横丁のホルモン焼きや串カツを食べたり、将棋を楽しむ年配の方々を眺めたりして、最後はやっぱりスパワールドで〆る。さすがに最近は、並んでまで某二度づけお断りの串カツ屋さんで食べることはなくなり、観光客向けの真新しい串カツ屋で済ませている。

この前は、思いっきり新世界界隈を楽しもう!企画をして、街歩きを楽しんだ。まずは、新世界のシンボルである通天閣を眺めながら、イタリアン・スパゲッティを喫茶店でいただく。ナポリタンとも呼ばれるそれは、ケチャップとウスターソースで味つけをした懐かしい味。具材も玉ねぎ、ピーマン、グリーンピース、ハムと至ってシンプル。なのに、何故こんなにうまいのか。口の周りをオレンジ色にして、日曜日の昼下がりに食べるのが至福の時。デザートはホイップクリームとバニラアイスが乗った、クリームコーヒーをいただく。程よい甘さと冷たさが、残暑で堪えた五臓六腑に沁み渡る。

腹ごしらえをしたところで、以前から気になっていた阪堺線に乗ってみた。通天閣の麓である恵比寿町と天王寺、堺市をY字で結ぶ現役のチンチン電車。ちょうど路線のY字の真ん中にあるのが、有名な住吉大社。一緒に乗る人たちに乗り方を聞いて、住宅街の中を路面電車はゆっくりとゆく。「次、とまります」の表示が出るのもいい。

住吉鳥居前で下車して、住吉大社でお参り。初めての参拝だったので、その由緒や大きさにびっくりしてしまったが、「すみよっさん」と呼ばれる大阪の人には馴染みある神社。最近のパワースポット・ブームか、若い人たちの姿が多く見られる。確かに、深い緑と朱色の建物、白塗りの壁などを見ていると、背筋がピンと伸びて清々しい気持ちになる。「大阪に来ました。これからどうぞ宜しく」と、ご挨拶。

帰りも阪堺電車で戻り、夕暮れの良い時間帯に、スパワールドで〆る。汗も疲れも洗い流し、ゆったりと湯船につかる。はぁ〜、生き返る、生き返る。この温泉も、大阪の大地の恵みだよね。温泉の後は、今宮戎の無鉄砲で豚骨のこってりラーメンを。たくさんの大阪パワーをもらって、この日のお楽しみは終了。

少しずつ街歩きを広げることで、大阪の大地を踏みしめ、根を張っていく時期なのかもしれない。住めば都、次はぶらり、どこを歩こうか。そうした街歩きを考えるのが、最近のお楽しみである。

(2010年9月)