スタッフエッセイ 2010年8月

古代エジプトの香油

村本邦子

エジプトへ旅をした。ダイビングがおもな目的だったが、せっかくの機会なので、ピラミッドやスフィンクスも見ておこうと、カイロに滞在した。そこで、エジプトの香油と出会った。エジプトの香水瓶についてはガイドブックで読んでいたが、香油についてはどこにも書かれてなかった。でも、そう言えば、昔、アロマの勉強をした時、古代エジプトの香油について書かれていたっけ。

パピルス文書(紀元前2800年頃)には、古代エジプトにおける薬草の使用方法が記録されており、神殿で乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)を焚き、神に捧げられていた。香油は非常に貴重なものであったため、ファラオたちの墓にも納められ、後の世の盗賊たちは、宝石よりも香油を盗んだそうだ。ミイラを作る時にも香料が使われ、1922年、ツタンカーメン王の墳墓が開かれたときは、3千年以上の時間を超えてなお香りが残っていたというから驚きだ。このツタンカーメンの黄金の玉座には、王妃が王に香油を塗っている場面が描かれているし、クレオパトラがバラ風呂に入り、香油を愛用していたことは有名だ。耳にローズ、手首にジャスミン、おへそにロータスと、体の部位ごとに違う香油をつけていたと聞いた。

香油屋さんに入ると、香油の名前のリストを渡され、希望のオイルの名前を言うと、たくさんの瓶がずらりと並んだなかから、選び出して試させてくれる。シャネルを初め、有名な香水の原料はエジプトの香油なのだそうだ。エジプトの香油は、水もアルコールも使っていない純粋なエセンシャル・オイルだから、10年は持つという。アロマの勉強では、エセンシャル・オイルの使用期限は1〜2年と習ったので、「ほんまかいな?」と疑わしく感じるが、ツタンカーメン王の香油は何千年も薫っていたというのだから、まんざら嘘ではないのかもしれない。あるいは、特殊な製法なのか?ざっと調べてみた限りでは、情報は得られなかった。

ロータス、パピルス、ライラック、ひまわり、百合・・・、普段、見かけない花のオイルがたくさん並んでいる。もちろん、ローズも。ローズのエッセンシャル・オイルを日本で買えば、倒れそうに高いが(小さな小さな小瓶で万とする)、エジプトでは普通だ。「キー・オブ・ライフ」(エジプトの古書や絵に出てくる円形の取っ手のついた十字。命を表すヒエログリフで神の標識)、「クレオパトラ」「5つの秘密」「砂漠の秘密」などのブレンドも。アロマ好きの私には、どれも魅惑的で甲乙つけがたく、結局、少しずつ12種類ものオイルを買った。

何から試そうかな?今日は、ブレンド「谷の百合」を部屋に焚いてみた。意外にもオレンジ系の明るい香りだ。そして、パピルスのコロンを自分に振ってみる。甘さが混じるがどちらかと言えばスッキリした香り。古代エジプト人が紙を作っていたあのパピルスだ。巨大なカヤツリグサをイメージするといい。葉の部分が太陽に似ており(太陽というと丸を思い浮かべるかもしれないが、光線の部分。太陽の神、アテン神の姿も、赤い丸からたくさんの腕を伸ばした形をしている)、茎を切るとピラミッドの形をしているので、とても神聖な植物とされた。

エジプト旅行の残り香を楽しみながら、また元気に働こう。

(2010年8月)