スタッフエッセイ 2010年7月

歯医者さん

渡邉佳代

じめじめした梅雨の季節も何とか元気に過ごしていた…つもりだった。体力・気力でどうにかなる20代を過ぎて、数年前から体のメンテナンスに目を向けるようになり、体を動かしたり、食事や睡眠に気をつけたり、定期的に整骨院やマッサージに通うように心がけていた…つもりだった。先日、いただきもののメロンを大喜びで食べていると、唇が激痛に見舞われ、なんと火傷のように水膨れができてしまった。初めてのことで驚いたが、メロンアレルギーが出てしまったらしい。知り合いの看護師さんいわく、免疫系が下がり、体が弱っているときに出やすいのだそう。これからウリ科のキュウリ、ゴーヤー、ヘチマ、スイカなどがおいしい季節だというのに、なるべく控えるようにと言われ、大ショック!!

食いしん坊の私から、食べ物を取ってしまったら、何も残らない…こともないが、目に見えないところで、私の体が変化していることを感じ、少し寂しくなった。見た目も気持ちも元気なのに、目に見えないところで弱っているなんて、自分の体を過信せず、うまくつきあっていかないとな…そんなことを思っていた矢先だった。今度は歯が痛む。しかも、銀歯の詰め物の中が痛いような…。本当に私から食べ物を(以下略…)!!と思い、慌ててネットで調べ、夜間でも診てもらえる歯医者さんに駆け込んだ。

急な来院を嫌な顔ひとつせず、あたたかく迎えていただいた。実は、恥ずかしながら歯医者さんは10年ぶり。定期検診のハガキがよく来ていたが、痛みも不具合もなかったので、そのままにしていたのだ。でも、私は歯医者が嫌いだということはない。むしろ、小さい頃から病院は好きだった。小さい頃は診察も嫌がらず、痛くても泣かず、礼儀正しく(?)していたので、病院では常に優しく親切に対応してもらい、褒められることも多かった。ただ、大人になるにつれ、忙しさにかまけて、不具合がなければ病院の扉を叩くことがなくなってしまったのだ。

10年ぶりに歯医者を訪れ、大仰な物言いだが、科学と医学の進歩にただただ驚いてしまった。口の中の細かな写真や、レントゲン写真がすぐにモニターで確認でき、その場で座っているだけで、部分レントゲンも取れてしまう。今後の治療方針、来院の頻度、ホームケアでの注意点など、分かりやすく図式化した紙面をくださったり、痛みの原因や、どんな質問でも懇切丁寧に説明してくださる。安心して治療が受けられるような、あたたかい対応やお心配りに、対人援助の仕事に携わる私自身にとって学ぶことも多かった。ただ、カウンセリングでは、心の状態やつらさの原因など、目に見えるものではないので説明が難しいが、それでも初回に不安でいっぱいになって来談くださった方への対応や言葉かけなど、私自身、常に心がけているので、この歯医者さんに対してとても好感が持てた。

結果としては、虫歯はなかった。銀歯の中も異常なし。原因は、銀歯の噛み合わせが悪くなっていて、食べ物が挟まりやすくなったこと、体が弱っていることもあったのだろう。ちょうど銀歯と歯茎がぶつかるところで細菌が入り、炎症を起こしていたのだ。消毒・殺菌をして、薬を歯に詰めてもらうだけだったが、「大丈夫ですよ、初回は大きなことはしませんからね。安心してください」「緊張されていますね。少しでも痛かったら、手を挙げてくださいね」と、何度も声をかけられる。治療も少ししては手を止められ、私の状態を尋ねてくださる。10年ぶりの歯医者と伝えてしまったので、よほど歯医者が嫌いか、怖いと思われているのだろうか。よほど、歯医者は好きですよ、と言いそうになってしまった。

そう独りで思い、ちょっとおかしくなったが、あんまり言われるので、治療を受けている自分の体にも意識を向けてみた。自分では平気と思っているものの、手足が硬くなって、知らないうちに手にはハンカチを握りしめている。呼吸が口呼吸になろうとして、苦しくなっている。あぁ、体は不安でいっぱいだったのだと気づく。口呼吸ではなく、鼻呼吸にしようと、鼻の粘膜に新鮮な空気が行き来するイメージをしてみると、少し呼吸が楽になる。できるかぎり、手足の力を抜くように工夫してみる。途中で、小さい頃は平気だったのに、自分を甘やかし始めて、体のあちこちの不具合に弱くなってきたのか…という思いが一瞬、頭をもたげるが、いやいや、これってちゃんと自分の体に目を向け、上手につきあっているよな、と思いなおす。

治療を受けながら、何だか自己カウンセリングをしているようだった。まだまだ自分とのつきあいに不器用な私である。でも、少しずつ上手につきあえるようになってきたよね。しばらく、歯医者通いが続きそうだ。歯の定期検診も、今まで任意の健康診断(しかも、学生時代の身長・体重を計るような)くらいにしか考えていなかったが、虫歯の検診はもちろんのこと、歯磨きでは落としきれない汚れから、細菌が繁殖することもあり、予防歯科の観点から定期的なクリーニングが必要だという。

先日、痛みがマシになって来院した。医師からの治療ではなく、衛生士さんからの説明や、歯のクリーニングをしてもらうだけなのに、わざわざ主治医が「今日は顔色も表情も良く、安心しましたよ」と声をかけに来てくださった。対人援助の姿勢も、しばらくここで学ばせていただこう。そして、私自身が少しずつ年齢とともに、変化していく体や心ともうまくつきあっていけるよう、これからも心がけていきたい。

(2010年7月)