スタッフエッセイ 2010年2月

アートを訪ねて

長川歩美

この10年ほど、美術館を訪ねて旅行をするのが楽しみの一つになっている。旅の目的は、自然と食とアートとその土地を歩き廻ること。北海道から九州・四国まで、いろいろな美術館を訪ねて来たが、なかでも瀬戸内海沿岸で近年展開されている現代アートプロジェクトが面白いなぁと思う。

数ある瀬戸内のアートスポットのなかで、9年前と去年、2度たずねたのが、香川県の直島という人口3500人ほどの小さな島。安藤忠雄さん建築の、美術館とホテルが一体化した「ベネッセハウス」に宿泊するのを楽しみに出かけた。自然豊かな海辺の美術館の一角に泊まるのは新しい体験で、ふとみたくなったら、いつでも何度でも作品をみに行けるというのが嬉しい。

直島は不思議な島で、そこで暮らす人々の普段の生活の中に、新しい現代アートが違和感なく調和している。なんとも懐かしい田舎であり、現代的で洗練されたアート空間でもあり。直島にはベネッセハウスの他に、色とりどりの花と蓮池の美しい庭に導かれて入り口にたどりつく(建物がすべて地下に埋まった)地中美術館や、気鋭の現代作家たちが、島に点在しているいくつかの古い民家をまるごと作品に変貌させていく家プロジェクトなどがある。港やホテルの海辺には草間彌生さんのかぼちゃのオブジェが緑と海に映えて、時間と共にその味わいが変わる。1日の滞在ではもったいないような島まるごとのアートスポットだ。

ベネッセハウスには国内外の現代アーティストがやってきて、直島の自然や人、ものを体感して、そこにあるものを材料につくった作品が多く見られる。出会いから新しいアートが生まれるのだ。そしてそのアートはまた島の一部となり、創造が続いていく。在るものを破壊して新しいものをつくるのではなくて、在るものを活かし、無いものをつくるのだという。いろんなものの相互交流から新しい文化が紡がれていくような感じがする。

昨年は直島とあわせて、人口が55名、平均年齢が73歳という過疎高齢化の典型のような瀬戸内海の島のひとつ、犬島にも足をのばしてみた。犬島は環境に配慮した「循環型社会」のモデルになる提案型アートスポットで、旧精錬所遺構を生かした建築物にテーマ性の強い作品が提示されていて、その土地の歴史と自然が活かされた空間になっているのが印象的だった。

私がこの瀬戸内の現代アートプロジェクトに惹かれるのは、このプロジェクトがそもそも人口の減少と高齢化を抱える瀬戸内の島々を舞台に、それぞれの島で育まれてきた固有の民俗を活かし、営まれてきた生活、歴史に焦点を当て、そこにアートが関わることによって住民、特に島のお年寄りたちの元気を再生する機会を作り出すことを願ったものであること、それから、島を訪れる人々が「アートからすでに定まった価値観を学ぶのではなく、一人ひとりがアートと自ら向き合い、自分の力によって「よく生きる」を考えるためのものでありたい」というコンセプトに共鳴するからだ。自分の仕事であるカウンセリングにも通じることだと思える。

参加する誰もが能動的で、在るものがそのまま尊重され、活かされる。アートが媒介となって国内外から人が訪れ、出会いの相互交流によって新しいエネルギーがうまれる。常々アート、特に現代アートには、自分に向き合い、エネルギーを活性化する力があるように思っていたが、このプロジェクトでは新しいエネルギーが生まれる循環そのものを創造しているのがすばらしいなぁと思う。

今年は直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺を舞台に7月から10月まで、瀬戸内国際芸術祭「アートと海を巡る百日間の冒険」が開催される予定だという。百日間・・とは言わないが、1週間くらい・・いや、せめて3,4日間ぷらぷらっと島を渡り歩きながら、いろんな出会いを楽しみに行きたいな〜と思っている。

(2010年2月)