スタッフエッセイ 2010年2月

ザッハトルテに思うこと

安田裕子

こってりとした濃厚な味わいを特徴とする、チョコレートをふんだんに使ったケーキ、ザッハトルテを、久しぶりに作ってみた。

ザッハトルテは、もともとはオーストリアの代表的なお菓子で、オーストリアの首都ウィーンのホテル・ザッハーの名物菓子であるという。一昨年の夏、機会に恵まれウィーンを訪れた時、甘いもの好きの私は、一緒にウィーンに渡航した学生と、本場のザッハトルテを是非とも食べたいねっ♪と楽しみにしていた。ガイドブックでザッハトルテを食べることのできるお店を入念にチェックするも、結局、限られた時間のなかで美術館に行く選択肢を優先させることとなった。それでも、美術館内のカフェでザッハトルテを食べることができるかもね〜、と期待しつつ、しかし残念なことに、その美術館のカフェではザッハトルテにお目見えすることができず。少し心残りのままに、帰国の旅路につくこととなった。

だが私はひそかに、日本に帰ったらすぐに、異国情緒のままにザッハトルテを作ろう!と思いたった。日本でも、少し探せばザッハトルテはケーキ屋さんに並んでいる。買って食べるのが手っとり早いこと、また、確実に美味しいザッハトルテを食べることができることはわかっていた。しかし、短期間であってもウィーンの土地に滞在し、街を歩きフィールドワークをし、その場その場の特徴的な風景や街並み、建物や美術品などの造形物を目にしたり、ウィーンの人々と研究交流をしたり、一緒に過ごした学生や先生方と色んなことを話し経験と感動を共有する貴重な時間を過ごした私には、日本に帰って単に買って食べるのではなく、ザッハトルテを自分で作るということに意味があった。もともとお菓子作りが好きであり、それにもかかわらず、いそがしさにかまけてそうしたゆとりのある楽しい時間を充分に取れずにいた私は、ウィーンを訪れたことをひとつのきっかけに、少し無理してでも時間を確保し精神的なゆとりをもつことができたら、と思ったわけである。しかし、帰国後は案の定、ザッハトルテを作るお楽しみの時間をとりそびれ、そのままに日数が経過していった。このことがほんの少し、気掛かりのままになっていた。

ここ数年間、色んな有難い機会に挑戦させていただくなかで、その時々で私なりに、大小様々な山を越えてきた。それなりにハードなこともあり、また牛歩のマイペースだったかもしれないが、その過程で、自分なりに歩み進めることができた。昨年度から今年度にかけては特に、そのうち私にとって最も重要な課題のひとつに取り組み、本当に色んな人々の支えを様々なかたちでいただきながら、有難いことに、その課題を最近完成させることができた。今、気持ちのうえで随分とゆとりをもつことができているように思う。このことを土台にして、とりわけ節目である今年からは、与えていただける貴重な機会を大切にするというスタンスを保持しつつ、また、関わりを持たせていただける人々との出会いと関係性に感謝しながら、少しでも精神的な余裕をもつように心掛けつつ目標とする新たなテーマを設定し、自分なりに歩んでいけると、と思っている。

気になりながらも、ゆっくりと楽しんで作る時間をもつことすらままならなかったザッハトルテ。十数カ月越しに作り、その出来栄えに我ながら満足!(笑)しながら、そんなことを思った。

(2010年2月)