スタッフエッセイ 2010年1月

人生の正午 II いつかを今に

窪田容子

人生には限りがあると強く意識するのも、人生の正午あたりだろう。もちろん、誰しも人生は無限ではないことは知っている。しかし、実感を伴って強く意識するのは、たとえ平均寿命まで生きられたとしても、自分の前に伸びている時間が、自分の後ろに伸びている時間よりも短くなっていくこの時期ではないだろうか。その時、人は人生の残り時間に思いをはせる。

毎年、一年が経つのが早くなっていくように感じられる。幼い頃は、あんなに長かった一年が、今は飛ぶように過ぎていく。その感覚は、自分の生きてきた時間に反比例するのではないだろうか。5歳の子どもなら1年は、自分の生きてきた時間の5分の1であるが、40歳の人なら、たったの40分の1である。自分の生きてきた時間が、無意識に物差しになって、早いなぁと感じるのだとすれば、この先、時間はもっと早く過ぎていくのかもしれない。

いつかできたらいいなぁと思うことがある。しかし、いつか、いつかと先延ばしにしていられるほど人生は悠長に待ってはくれない。年配の友達に、「人生があと半分あると思ったら、間違いやで」と言われた。もっと早くにお迎えが来てしまうかもしれないし、生きてはいても病を抱えていたり、寝たきりになっているかもしれない。元気で暮らせる時というのは、そう長くはないのかもしれない。

いつかいつかと先延ばしにするのはやめて、いつかを今にしていきたいと思い始めた。40歳になって、いつかを今にしたこと二つある。

いつか、小さな車が欲しいなぁと思っていた。家族で使っている車は、私が気軽に乗るのには大きすぎて、必要に迫られたとき以外は運転していなかった。40歳の節目に、末っ子が小学生になり子育てにおいても節目を迎えた。子育てに仕事にと頑張ってきた自分へのご褒美と、この先の人生へのはなむけに、小さくてシックな車を買った。行きたい時に、行きたいところに車に乗って出かけられるようになり、行動範囲がぐっと広がった。アクティブになり、新たな自由を手に入れた。

いつか、テニスを始めたいなぁと思っていた。周りテニスをしている人が結構いて、年をとってからも続けられるからお勧めだよと言われていた。体を動かし、体力をつけたいという思いもあった。だけど、ためらう気持ちもあった。若い頃にやっていたならまだしも、この年で初めてのテニスなんて・・・。

背中を押してくれたのは子どもたちだった。子どもたちは、バスケット、サッカー、水泳と、それぞれ自分の好きなスポーツをしているので、体を動かす楽しさを知っている。なかなか始めないでいる私に、「お母さんもしたらいいのに。」「いつからするん?」と言ってくれるので、体験だけでもしてみようとレッスンに申し込んだ。そしたら、気持ちよくて、楽しくて!疲れているなぁ、しんどいなぁ、嫌なことがあったなぁ、憂鬱だなぁという時にも、テニスに行って帰ってくると、爽快感がある。日常生活の中での楽しみが、また一つ増えた。

いつ何時、病に倒れたり、体が動かなくなってしまうかは誰にも分からない。いつそうなっても悔いのないように生きていくことは、なかなか難しいことだ。だけど、不可能になってから、もっと早くすれば良かったと嘆く人生は、できれば送りたくないと思う。

いつか、いつかと先延ばしにしていることが、まだいくつかある。今年は何を、今にしていこうか。何かを始めるのに、今より若い時はない。

(2010年1月)