スタッフエッセイ 2009年9月

東京ステイ

桑田道子

この夏、週1ペースで東京出張が入っていたので、思い切って前後に休みをとったり、ゆるゆるなスケジュールで東京ステイを楽しむことにした。

東京の、私の一番古い記憶は、小学校にあがる春休みにオープンしたばかりのディズニーランドへ連れて行ってもらったのが最初。ダンボに乗ったのと、近づいてきたグーフィが怖くて逃げたことと、スペースマウンテンの行列に並んで、やっと順番がまわってくる頃に突然トイレに行きたくなって非常口からトイレに行かせてもらったこと…、なんかは覚えているけれど、その次の日はどこへ行ったのかとか何をしたなど他のことはすっかり忘れている。

その後、従姉妹が住んでいるのもあり、泊まりにいったり、中学の卒業旅行に友人と二人で上京していっちょまえにディズニーオフィシャルホテルに泊まって、当時まだ東京にしかなかった渋谷のボディショップで買い物をして嬉しかったことや、高校の修学旅行で行ったり(北海道が目的地だったけれど、その前に各自ディズニーランドで遊んでから上野駅集合で、夜行で北海道入りする修学旅行だった)、大学の後輩と表参道をウロウロしたり…、東京にまつわる楽しい思い出はその頃でストップしている。

院生以降、3〜4ヶ月に1度ぐらいのペースで上京の機会がありながら、たいていバタバタと動き回って(そのなかには友人宅へ遊びにいったり、銀座で買い物したりも含んでいるけれど)、最終ののぞみや夜行バスで帰阪していた。慌しい移動で、行くたび新しいビルや店が出来ているのを横目に見ていることも多かったので、今回は東京を楽しむ、をテーマに…。

一度は夫と一緒に上京し、東京駅でわかれて仕事へ向かい、それぞれ1泊して、翌日待ち合わせてもう1泊。汐留の素敵なホテルを予約したので、浜離宮恩賜庭園の池のまわりを散歩したり、日テレをウロウロしてみたり、完全におのぼりさんで楽しんだ。水上バスにも乗ってみたかったが、ちょうどいい時間がなく今回は断念。

翌日のランチは、麻布十番のフレンチに。パリのとても美味しい、大好きなレストランで修行をされていたシェフがお店をオープンさせていて、ずっと気になっていたので、予約をして食べにいった。ふんだんに使われたビオファームまつきの野菜は、色がアクリル絵具みたいにクッキリしていて(この表現では美味しくなさそう?!)、とても味が濃くて本当に美味しかった!トマトのシャーベットと雲丹の前菜も初めて食べる味だったし、モロヘイヤをそのまま刻まずに使うとこんなふうになるんだ!と驚いたり、1品、1品、どんなのが出てくるのかウキウキするようなランチだった。肉・魚・野菜・果物・きのこ…、どの食材も入手先にこだわって選び抜かれたものらしく、秋にはジビエも愉しめるそう。また行きたい…。小さな店内はすぐに予約客で満席だったが、サービスの目も行き届いているし、帰り際にはシェフも外まで見送りに出てこられ、また来たい!とリピーター必至のいいレストランだった。

一人での上京時には、予算(超!)オーバーだけど「たまにのことだから」とシモンズのベッド、シャンパンのサービス、バスルームと別にシャワーブースがあって…とリッチなホテルでゆっくり過ごしたり、東京都庭園を散歩したり、映画を見たり、チョコレートサロンへ行ってみたりした。ちょうど街中のポスターで「エコール・ド・パリ展−パリにきらめく画家たち」を展示しているのをみつけ、白金台の松岡美術館へも行ってみた。

白金台の駅から外苑西通りを歩いて10分ほど、住宅街のなかに美術館はあり、その道中も洋服や家具のセレクトショップが立ち並び、緑も多くて、きれいな町並みだった(プラチナ通りと呼ばれるらしい)。平日の昼間、館内では数人とすれ違うぐらいで、広々とゆっくり名画を堪能することが出来た。いくつかの絵には、画家名、タイトル、年代と共にQRコードがついていて、携帯で読み取れば、より詳しいその絵に関する説明や背景を知ることが出来るようになっていた。美術館特製の、パリの画家たちの年表や地図も興味深い。

ユトリロやシャガールは日本でも有名だが、1920年頃に活躍していた画家たちは、第一次世界大戦、第二次世界大戦を経験しているのがどんなふうに作品に影響してるのだろう、と思う。親を知らずに育ったり、迫害をうけて亡命したり、アル中になったり…。私自身にはまったく絵心がなく、どんな情熱が絵に向かうのか想像もできないが、人間、そして世界の混乱を感受性豊かな心で受け、絵にあらわしていった人たちの命が伝わってくるような展示だった。それほど数があるわけではないので、じっくり鑑賞することができた。

それから、思いがけず良かったのが、常設展示のガンダーラ・インド彫刻の仏像だった。それらが飾られてあるとは知らなかったし、仏像に特別興味があるわけでもなかったが、柔らかな表情、柔らかな姿の菩薩像や、釈迦の生涯を表わした仏伝図、インド舞踊のルーツを感じさせるようなインド中世ヒンズー教神像彫刻がたくさん展示されていて、面白かった。美術館としては小さなものだが、これを一人で集めたと思うと…、その(松岡氏の)パワーがすごい。庭園を見ながらお茶と季節菓子をいただくサービスもあって、庶民の僻みか、美術のコレクターなんてちょっと…と偏見を抱いていたような気がするが、個人的なコレクションと私財を使って、そんな場所とひとときを後世に提供できるなんて素晴らしいなぁとしみじみ思った。静かな落ち着いた場所で、芸術作品と歴史に触れ、穏やかにリフレッシュすることが出来た。

いざ旅行といっても、特別ななにかが出来るわけでもなかったが(すっかり忘れているけれど、そもそもは仕事をしにきてるし!)、どこに行きたい気分かなーとガイドブックを見てみたり、いつもよりゆっくり贅沢に時間を過ごしていいんだよ、と自分にメッセージを送って、休日を満喫でき、元気に大阪に戻ってきた。

9月に入って、いつになく「もう9月!早いですね」と何人の人にも言われたが、今年もあと3分の1。幸せに2010年を迎えられるよう、秋も元気に走っていこうと思う。

(2009年9月)