スタッフエッセイ 2009年8月

世界の北の国から

安田裕子

美味しいサーモン,白夜,福祉が充実,フィヨルド,お隣にはムーミン・・・。
そんなこんなできっと素敵なところだろうなぁと,想像たくましくしていた北欧の国,ノルウェー。この夏,訪問する機会に恵まれた。滞在先はオスロ。ノルウェーの首都である。北欧への憧れをなんとなく抱いていた私は,とても楽しみな旅であった。

サーモン,これは想像通り,いや想像以上に美味しかった。グリルしたサーモンも,肉厚でやわらかく♪ また,ホテルの朝食バイキングからサーモンが登場♪ サーモン好き&食べること好きの私は,毎日朝からハイテンション。

ホテルの朝食は,「スカンジナビア・ブレックファースト」。初めて聞く形態だったので,どんなんかなぁ???と期待に胸を膨らませ。ヨーロッパでは,パンとコーヒーや紅茶,あっても気持ち程度の果物といった「コンチネンタル・ブレックファースト」が主流と聞いていたが,オスロでの朝食はとっても豪華なものだった。

数種のサーモンのマリネやサーモンなどをペースト状にしたテリーヌ,オムレツやスクランブルエッグなどのタマゴ料理,数種のハムやチーズやソーセージ,フライドポテトにポテトサラダ,フレッシュな数種の野菜たち,毎日焼かれる数種のパン,ワッフル,そして豊富なジャム,数種のヨーグルトにみずみずしく甘ずっぱいフルーツ,コーヒー・紅茶・ミルクはもちろんジュースやココアなどなど飲み物もふんだんに。

朝食もさることながら,広く清潔な内装,リッチな長椅子,無線Lan完備のインターネット環境などなど,部屋の設備も充実していた。水道水も豊かで,凍るほどに冷たい澄んだ水が蛇口からあふれ出,毎朝の目覚めも心地よかった。取り立てて高級なところに泊まったわけではなかったが,オスロのホテルが全般的に,適度な質を備えているようであった。

初めて体験した白夜はとても神秘的だった。白夜とは,真夜中になっても薄明になっているか,または太陽が沈まない現象のことである。知識としては知っていたが,本当に真夜中でも空が白々しているのには,とても不思議な感じがした。高緯度にあるため地球が自転してもほぼ太陽が見える位置にあることになり,夏は夜になっても太陽がほとんど沈まないのである。そのためノルウェーのような高緯度地域の夏は,そもそもとにかく日中が長い。なかなか暗くならないため時間が経過したことに気づきにくく,時間が止まったような気にすらなる。夕ご飯を食べに出ても,いつまでも空が明るいため,話に夢中になって時間が経っていることに気がつかず,あっという間に2〜3時間が経過している,という毎日だった。

オスロの街はとても穏やかで,公園が多く緑も豊か。画家であるムンクの有名な「叫び」の絵が飾られている美術館は,誰もがフリーで入れるようになっていた。街全体はこぢんまりしていて少し歩けば港に行き当たり,水際の高台には古城がそびえたっていた。そんな港のそばでゆっくりとした時を過ごす人々。水鳥に餌をあげるおじさん。とても豊かな街のように思えた。

しかし,非常に物価が高いことには正直驚いた。内税が25%。ちょっとしたサンドウッチを買うのにも1000円,パスタ一皿食するのにも3000円前後した。

2006年8月に出されたスイスのUBS銀行による調査では,オスロはロンドンと並んで最も物価の高い都市となっている。しかし私の感覚からすると,ロンドンよりもずっと物価高のように思えた(ロンドン経由でオスロにやってきたため,リアルな感覚に基づいて比較しているつもりである)。一週間弱オスロに滞在しているうちにこの物価の高さにも慣れてきたが(慣れざるをえなかったのだが),ツーリストには,この物価高は少々きついように思えた。実際,バックパックで旅するような若者を,オスロで見かけることはなかった。北欧諸国は,旅行会社が用意しているツアー料金をみても値が張り,経済的に余裕のある定年間近や定年を迎えた夫婦が訪れる国という印象が強いが,物価高を私自身直に体験し,それもそのはずと合点がいった。オスロの人々は生活が大変ではないのだろうかと思ったが,給料の額は,チューリッヒ,コペンハーゲンと並んで最も高いとのことだった。

こうした税金の高さは,高福祉国家であることと表裏をなしているものなのだろう。物価の高さにのみこだわることは賢明ではなく,おそらく,どこにどのようにお金が使われるか,ということが重要なのだと思う。実際,物価が高いと日々の生活は大変なのかもしれないが,お給料がそれなりに保障され,また,福祉が充実しているのなら,それはそれだろうし,むしろ人に優しい国ということになる。

他方で,ホームレスがいることには,福祉が充実しているはずなのにと気になった。ホームレスに若い人々が目立った。ひとくちに高福祉国家といっても,その内実はどのようなものなのか。どの層にどのように福祉が配分されているのか。失業率が高く,福祉が行き届かないような層がもしあるとするならば,そうした人々には,日々の物価高は,生活を圧迫し,生命を脅かす以外のなにものでもないだろう。

日本がこれからどのような方向性を目指しているのか,福祉や支援の内容や対象をどのように考えているのか。表面的なからくりにとらわれることなく,きちんと社会の有り様と向かう方向性を見定める眼を養うことの必要性を痛感した。

(2009年8月)