スタッフエッセイ 2009年7月

身体の声を聴く〜身体感覚のリズム

西 順子

今年の年報のテーマは「身体の声を聴く(仮題)」。今スタッフそれぞれが年報のテーマに取り組んでいる。私自身も、日常生活のなかで、また臨床活動のなかで、近年少しずつ「身体の声を聴く」ことを意識するようになってきた。

日常生活で身体に注意を向けるようになったきっかけの一つは、4年前のこと。ストレスのせいか体重がどんどん増え、ついに健康診断で「肥満度1」のチェックが入ってしまった。そのころ、体調もよくなかった。身体がしんどくて、どこか悪いのではないかと疑ったが、健康診断で他の異常はない(コレステロール、中性脂肪にはチェックが入っていたが)。慢性疲労だったのか? メンタル面からくるしんどさだったのか? 老化からくる変化か? 原因はよくわからないが、身体のしんどさに不安を感じていた。健康診断の結果を機に、このままではいけないと思い立ち、肥満を解消しよう、生活習慣を変えようと(夜、家で仕事をしたりパソコンに向かっていると、やたらとお菓子を食べてしまう)、ジムに行ってみることにした。以前ジムに入会したこともあったが、その時は挫折した。ただ黙々と走るランニングマシーンがおもしろくなくて、続かなかった。だから今度は、マシーン以外のものでやってみようと、スタジオプログラムに入ってみた。そこではじめてエアロビクスに出会ったのだが、それがとても楽しくて、すっかりはまってしまった。最初の目的はどこかに行き、とにかく楽しいし、上達するのも嬉しくて、一年間は時間を見つけてせっせと通うこととなった。

中学の頃、一年間だったがモダンバレエを少し習ったこと、20代の頃にも一年くらいジャズダンスを習ったことも思い出し、自分はダンスが好きだったんだ、と懐かしい気持ちになった。しかも、昔は振付を覚えるのが苦手で、ダンスを楽しむまでには至らなかったが、エアロビクスは覚えやすくて、楽しめる。身体を動かす方法にはいろいろあるけれど、私には、音楽のリズムに合わせて楽しく身体を動かせるのが合っているんだと気づいた。夫は、黙々と走るランニングが好きなので、人にはそれぞれ何が合っているかは違うんだ、と納得する。一時の熱は冷めたが、今も週に一回程度は、気分転換にエアロビクスをしているが、楽しくて、好きだからこそ続けられる。

もちろん、身体を動かすことでの効果もあった。身体面での効果では、肥満が解消されただけでなく、心肺機能は高まり、筋力がついて、駅の階段も一段飛ばしでも軽々と登れるくらい健脚になって、身動きが軽くなった。身体を動かすのが苦にならなくなった。しんどくて、だるいという体調の不調もいつの間にかどこかにいっていた。そして、身体面の効果以上に、精神面での効果もあった。身体を動かすことで心・気分も変化するんだということを発見した。しかし、もし好きではないこと(ランニングなど)を、「身体のため」と嫌々していては効果はなかったのだと思う。好きだし、楽しめたからこそ、効果もあったのだろう。

特に、何がよかったかというと「身体が喜ぶ」という「心地よさ」を十分に味わえたこと。その「心地よさ」とは、「身体のリズム」を感じることでもあった。エアロビクスでは、徐々に身体を動かして、後半で走ったり飛んだり跳ねたりするが、息が切れてもうこれ以上走るのは苦しい〜というところで、ちょうどペースダウンに入る。そして最後はストレッチをしてリラックスして終わる。交換神経が徐々に覚醒し、ピークに達したところで、徐々に緩めてリラックスへと入り、弛緩する。その身体のリズムというか、覚醒からリラックスへと、身体感覚が波のように変化していくのが心地よい。身体が心地よくなると、気分もリラックスする。リラックスしてストレッチしていると、心にしまっていた感情がじわっと出てきたり、涙が出てくることもあった。身体がリラックスして解放されると、心も解放されて涙がでるとは、最初は不思議な感じだった。でも、心と身体は本来一つのものであると考えると、ごく自然なことといえる。

年報では、トラウマ療法として、身体感覚を使う<ソマティック・エクスペリエンス>を取り上げたいと思っているが、開発者であるリヴァインは、身体感覚の「自然のリズムに同調し、尊重することはトラウマの変容のプロセスの大切な一部」であると言う(※)。

私がエアロビクスを通して取り戻せたのは、身体のもつ自然なリズム、身体感覚のリズムだったのかもしれない。自分のリズムに気づきやすくなったのか、日常のなかでは、呼吸のリズムに注意を向けることが多くなった。呼吸のリズムを感じ、そのペースにまかせていると、気持ちも落ち着いていく。リズムが感じれないときは、エアロビクスで身体を動かすことで、覚醒から弛緩へと流れていく身体感覚の心地よさを取り戻しやすい。

現在、ソマティック・エクスペリエンスのトレーニングを受けている最中であるが、トレーニングが受けられることに感謝して、自分自身が経験し学んだことを、来談されたクライエントさん、周りの人々に還元していければと思っている。身体感覚に気づくことで、「私は生きている」という生の肯定、実感につながるものと確信している。

※『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』
(ピーター・リヴァイン著・藤原千枝子訳、雲母書房)より

(2009年7月)