スタッフエッセイ 2009年3月

日常から

桑田道子

日中は上着がいらないぐらいポカポカ暖かくなったり、かと思えば、頭にキーンと響くような冷たい風が吹きすさんだり、なかなか落ち着かない。今シーズンはもういいかと、毛糸の服をクリーニングに出した途端に寒くなって、戻ってきたばかりのクリーニング袋を開けて、また着てたりする。先週末には、天満橋近辺で用があったので、帰りに大阪城の満開の梅を見ることができたり、いい香りがするなぁと目をあげると、まっしろの木蓮が咲いていたり、お天気は落ち着かないながら、確実に、段々と春が近づいてきているのを感じる。

この2年ほど、土日祝の半分には、NPOの活動(Vi-Project)が入っていた。関西のあちこちへ出向く内容のものなので、1月2日の朝8時に○○駅とか、休日に朝6時台に家を出ないといけないときなどはちょっとつらいなぁと思うこともあったけれど、これまで降り立ったことのない駅に何度も行くことになったり、たった1時間ほどでまったく大阪とは風景が違う山間の町へ行くことになったり、自分の行動範囲ではなかったいろんなところへ出かける機会となった。

先日行った先では、バスを降りて歩いていると、畑の脇道でふきのとうがたくさん顔をのぞかせていた。春だな〜と思いつつ、用を済ませ、またその道を歩いていると、ちょうど畑仕事をされている人がいたので声をかけて、ふきのとうを頂いて帰ってきた。ハンカチにそっと包んでいると「そんなちょっとやったら、味、わからへんよ」とおばちゃんは塊を4つ、5つと包んでビニル袋に入れてくれ、「てんぷらもいいけど、味噌も美味しい」と味噌の和え方を教えてくれた。「春の苦味は、冬の間にためこんだ脂肪や老廃物を排出させる働きがあるねんよ」と言うので「デトックスやね」と応じると、「それはなに?何の食べ物?」とおばちゃんとデトックス談義で盛り上がり、季節の食べ物をその季節にいただくことは理にかなっているという話をし、ついでに(?)軽トラで駅まで送ってもらった。

何度も通ううちに、お気に入りのパン屋やケーキ屋さんをみつけて、その駅へ行く楽しみなんかも出来てきた。お気に入りのひとつに、映画館がある。最近は大きなシネコンがあちこちに出来て、チケットも並ばずに購入できたり、座るスペースも広くなって、映画館がとても利用しやすくなったが、その映画館は、倉庫のようなところにある100席ほどしかない小さな劇場。もぎりさんはいるけれど、チケット自体は自動販売機で買う。作品は、新旧とりまぜて、全国上映のメジャー作品からミニシアターものまで、オーナーが独自で選んだものが2本立てで上映される。

幕間には映画館のスタッフがスクリーン前に立って、上映作品についてひとことコメントをしたり、毎月発行されるニュースレターには「上映したかったけれど〜〜の理由からあきらめた」「○○を上映して、〜〜だった」など、オーナーの声がダイレクトに書かれている。「○○を上映してください」という客からのリクエストに「好みではないのでしません!」というようなやりとりが載っていることもあってちょっと笑える。映画作品に愛情と誇りを持って、提供してくれていることが伝わってきて、とてもオリジナルな雰囲気が居心地良い。日本映画の黄金期と呼ばれたりする1950年代の映画館は、こんな感じだったのかな?と、最近はあまり見ない、白いカバーがかかっているちょっとくたびれたえんじ色の座席に座る。もちろん、最近の映画館でよくある「飲食物、持ち込み禁止」なんてことはなく、手作りのお弁当を食べている人を見かけたこともある。映画館スタッフは、前から「ビニル袋のガシャガシャいう音は、自分が思っている以上に耳障りな音なので、気をつけてください」と声をかける。

上映作品によって客数もずいぶんと差があるようで、ポツポツしか入っていないときもあれば、立ち見が出るほど、小さな暗い映画館が人で埋まっているときもある。立ち見が出ている大入り満員の日の幕間のスタッフからのコメントは、「もっとゆっくり見ていただきたいんです。が、帰っていただくわけにもいきませんので…チケット数も考えればよかった。こんなことは今回限りに…」である。もしかすると「サービス業としてどうなんだ?」とみる向きもあるかもしれないけれど、利益度外視で、映画を楽しんでもらいたい、良い作品(良いの基準は、オーナー判断だけど)をみせたいオーナーの心意気が伝わってくるように私は思って、気に入っている。

駅につながったビルにあるシネコンなんかも、とても便利なので、仕事が早く終わった時などに、携帯でピピッと上映作品と時間を確認して、そのまま携帯でチケット購入&座席指定。サッと行ってサッと帰る、なんてこともする。けれど、時代に逆行しているような古ーい映画館で、オーナーの思いのこもった映画をみて帰るときは、ちょっとコーヒーでも飲みながら、映画の感想を話し合いたい気持ちになる。

このところ「遊んでない」「おでかけしてない」「『○日までにあれせな、これせな』から解放されて100%休日をつくりたい!」と口にしたり思ったりすることが続いていて、反面、どこにもでかけず自宅で過ごして、日頃出来ていない片づけや整理をしたい気持ちもあって、なんかバランス悪くない?と、自分でもどうしたものかと思っていたが、エッセイを書こうと振り返ったときに、普段の日々のなかで、楽しい気持ち、嬉しい気持ち、面白い気持ちをたっぷり感じたり、人との出会いに刺激をもらっていることも思い出した。おでかけして非日常を楽しむのも、なんだかエネルギーチャージできたような気がして好きだけれど、日常生活の一日、一日、いまを大切に、この時間がかけがえのないものだと意識して、過ごしていきたい。

(2009年3月)