スタッフエッセイ 2008年10月

シンプルにいこう

津村 薫

 「シンプル」が、良いストレス対処法なのだと気づいたのは、いつ頃だろう。ストレスマネジメントで、「使う分だけ稼ぐ」という言葉があり、「ふーん、そう考えれば、実にシンプルですっきりした話やんなあ〜」と思ったのを覚えている。

 私自身は結構、単細胞だし、面倒くさがりな性格で、「じゃまくさいことは嫌だ〜」と思う、根性のないタイプなのに、思考だけは随分と面倒くさい人間だったと気づいたのも、近年のこと。面倒くさいといっても、複雑で、高度な思考回路を持ち合わせているのならまだしも(笑)、事をややこしくしてしまう思考を持っているというのかな。それは自他共に利益のないものだったように思うのだ。

 ごくシンプルに考えれば、日常にはよくある、なんてことのない話なのに、自分自身の思考のゆがみが、事をややこしくしていたと気づいた。それは、とてもすっきりする体験だが、一方で、過去の自分の思考やコミュニケーションを思い起こすと、「穴があったら入りたい」という衝動にかられたりもする。これもまた、マイナス志向な話だ。

 「ここに気づけて、言動を修正できるなんて、私って、なかなかやるじゃん。今までの失敗は、未熟だったんだから仕方ないし、青くてごめんねってことで(笑)!」と考えられればいいのだけれど、なかなかそこまで思えないのがつらいところ。でも、うじうじと過去の失敗を悔やみ続けるのも、面倒くさい生き方だ。苦い過去は具体的に未来に活かしつつ、心の中で迷惑をかけた方々に手を合わせて、それで勘弁してもらおう。ごめんなさい。

 「シンプルな対処」に必要なのは、「心を鍛える」ことだと思う。運動をして骨量や筋肉量を増やし、脂肪燃焼率を良くして、病気にかかりにくい体をつくることはとても大事だけど、同様に、少々のことで倒れたり破れたりしない心をつくることも大事だ。これは過去の体験をきちんと意味づけて、次回に活かしたり、上手にストレスコーピングをしたり、ややこしく考えている問題をシンプルに捉え直して、具体的な対処を見い出すようなことを繰り返して、対処能力を伸ばすことかな。
 
 いじけるのをやめると、そのうち、物事の全体像がつかみやすくなってくるのと、危険回避能力が身についてくるので、ややこしいことを考えない方が、事がシンプルに片付いて、自分も楽だと気づける。また、失敗のパターンを回避できることで、緊張度が減って、適度に余裕のある態度で物事に取り組めるようになる。これをやらないで、いちいち自分の傷つきだけを問題にしていたら、小さなかすり傷が、重傷や致命傷になってしまったりする。ポジティブには目がいかず、ネガティブな部分ばかりに注目する私に、前向きな良いことは起きない。悪循環を繰り返していたような気がする。
 
 これはトレーニングで変化できる。トレーニングにふさわしくない態度(後ろ向きな思考にしがみついたり、他者ばかり問題にしたり、枝葉部分にばかりこだわり、木を見て森を見ない態度など)さえ手放せば、大丈夫じゃないかなと思う。ぶつぶつ言ってないでトライしてみれば、必ず良い変化が起きるので、結局は自分のためなんだと気づけるのだ。具体的な変化が見えない時でも、「なるほど、こうした方が生きてて楽しいわ」と感じられるので、お得感がある(笑)。書店には、思考や生き方を変えるための本がズラリと並んでいる。手にとって、自分が魅力的だなと思うものを試してみるのがいいかもしれない。
 
 そうそう、器が大きくて、すっきり生きている、「できる人」を目指さないことも大事かも。自分の器なりに、至らない自分なりにできれば、それでいいんじゃないかな。誰かと比べて自信をなくすのも、つまらない生き方だ。以前の私よりも、今の私が伸びていれば、それでいい。そんなふうに私はいま考えている。人生もいろいろだ。抱えている問題も課題も、人それぞれ。とにかく、できることから着手するのが良いよね。
 
 威勢が良いことを書きながらお恥ずかしい話だが、ひとつ、なかなか実行できないことが、持ち物をシンプルにすること。私の知人で、いつも家がすっきりしている人がいる。転勤族の妻という立場で、転勤を繰り返すうちに身についたらしいが、シンプルライフを徹底している。家の調度品も増やさないとか、服や靴を買う時は同時に古いものを1着(1足)処分して、総数は増やさないとか、それはまあ見事な潔さ。転勤を言い渡されたら、1週間で準備できるレベルに片付けてあるのだそうだ。見習いたくても絶対に無理そう(笑)。
 
 若い頃、私は捨て魔だった。「一番高いのはスペースなんだから、場所をふさぐのは結局ロス!」と心底思えていた。なぜだか、年と共に捨てられなくなってきた。あれこれ思いが出てきたのかな。そうすっきりと割り切れなくなったというのか。これは成長なのか後退なのか、どっちだ(笑)?!

 特に本を捨てることができない。精神衛生のためにも(笑)、古本屋に売ることにしている。それでも、手放した途端に、「あ、あの小説をもう一度読みたい」と何度も思い、とうとう古本屋に行って、同じ小説を買ったことがある。何をやってるんだか、いったい(笑)。
 
 でも、何百冊売っても、買い戻したくなるのは数冊なので、その時はもう一度古本を買えばいいと割り切ることにした。そうそう、洋服も捨てられない。何となく「もったいないし、置いておこうかなー」ということになる。せっかく痩せたけど、「また太るかもしれないし」と、太っていた頃の洋服も残していたりして、いっこうにシンプルにならない。とほほ。
 
 心も体も生活もシンプルにする・・・というのには、まだ程遠そうな私。でも、すべてがシンプルにできなくても、生活に変化が起きているのだから、まっ、いいか。どんなふうに暮らせば、生きれば、考えれば魅力的かな?シンプルな問いだ。これを思考のポイントにしていこう。

(2008年10月)