スタッフエッセイ 2008年8月

つながり

窪田容子

 企業の管理職や一般従業員対象の、メンタルヘルス研修の講師を務める機会が増えてきた。メンタルヘルスの基礎知識や、対策をとる必要性、セルフケア、ラインによるケアなどについての研修を行う。受講者のほとんどは男性で、女性は数名いるかいないかであることが多い。若手の管理職が対象の場合は、受講者はたいてい私と同世代の人たちだ。

 研修を進めながら、受講者の声を聞いてみる。どんなことがストレス要因となっているのか尋ねると、仕事の量の多さや、難しさ、ノルマのプレッシャー、長時間労働、部下や上司との関係、難しい客との対応などが出てくる。ストレス反応について尋ねると、不眠や食欲不振、やる気が起こらない、出勤したくなくなる、集中できない、イライラする、不安になる、胃が痛くなる、一日中営業の数字が頭をぐるぐる回る、夢のなかでも仕事をしているなどなど。

 そんな声に耳を傾け、ちょっと疲れた顔や真剣に聴いてくれている顔を見ていると、学生時代の同級生の男の子たちの顔がかぶってくる。きっと、みんなこうやって働いてるんだろうな。社会の中で働き続けることは、そんなに楽なことではないよね。悔しさや腹立たしさをぐっと飲み込まなければならないこともあるだろう。自分の不甲斐なさを嘆いたり、失敗して落ち込むこともあるだろう。不安に負けそうな日も、焦って空回りする日も、仕事を投げ出したくなる日もきっとある。恵まれた環境で働いている私だって、働き続けることはそんなに楽なことではなかったから、企業で勤めている人は、きっと私が想像もできないような苦労があることだろう。それでも、逃げず、放り出さず、自棄を起こさずにきたから、こうしてこの研修の場で出会ったのだと思う。そう、私も彼らも。
 
 そんなことを思い巡らしていると、なんだかとっても応援したい気持ち、あたたかい気持ちがわいてくる。「がんばろうね。だけど、がんばり過ぎたらだめだよ。体と心を壊さないように、自分を大切にしようね。お互いに」。心でそんなメッセージを送りつつ、この研修がストレス社会を生き抜くための、力になりますようにと願いつつ・・・。

 久しぶりに高校や大学時代の友人たちと集まると、このごろ不思議な感覚を持つことがある。一年に一度会う程度なのに、しゅっちゅう顔を会わせていた学生時代より、なぜか親しみを感じるのだ。話をすれば、しみじみ共感し合えるようなそんな感じがするのだ。職業やパートナー、子どもの有無など、暮らし方はみんな異なるし、この約20年の間に体験したことは様々だけど、いろいろな人生経験を経て、誰もが深みを増している。それぞれがそれぞれの人生を懸命に生きているんだなぁと思い、どこかでつながりを感じるからなのだろう。
 
 企業研修で出会った人たちに、久しぶりに会う友人たちに、そんなつながりを感じられることは、年を重ねたことで得られる喜びの一つなのかもしれない。

(2008年8月)