スタッフエッセイ 2008年4月

冬から春へ、鳩の巣立ちとともに。

安田裕子

 2月下旬の寒い時期。一羽の鳩が、うちの庭の植え込みの樹に、巣をつくった。そして、卵を産み、あたため、雛がかえった。親となった鳩は、しばらくの間、産まれてきた雛に、せっせとえさをあたえる日々。鳥類の、子どもが巣立つまでの、心温まる光景。

 3月も下旬。家の人が私に、鳩が随分大きく育ったよと、教えてくれた。ただし、気がかりなことを、ひとつ付け加えて。

 もはや、すっかり成長した子鳩。しかし、全く巣立つ気配がないとのこと。母鳩が、羽で子鳩をバタバタとたたくようにしているのを、何度か見たという。まるで、なかなか巣立とうとしない子どもを、叱咤激励するかのように。それでも、子鳩は飛び立つそぶりを見せず、ただただ巣のなかでじっとしている。私も、2階のベランダから、そっと巣を拝見。すっかり大きく成長した鳩が、一点をまんじりと見続けながら、じっとたたずんでいる。あまりに見慣れない光景。

 う〜ん、飛べないの?だとすると、自力でえさをとれずに、死んでしまわない??母鳩の姿は、もはや見あたらない。ぷっくりと丸みを帯びた躯つきからは、時に、母鳩がえさを運んできてくれているのかなぁと、期待がふくらむ。しかし、そうしたことが、自然界で、いつまでも続くわけがない。

 ところが、ある日、子鳩が、庭のなかを、トコトコと歩いているのを発見。わ〜、歩いてる!少し驚かすようにしてみると、バタバタと飛んだ。いや、「飛ぶ」というより「跳ぶ」という感じかな。それでも、樹の上の巣から地面に降り、チョコチョコと、外の世界を探索することができるようになった様子には、嬉しいやら♪びっくりするやら!まだしっかりとは飛べないようだが、自力で動くことができるなら、えさを見つけることだってできる。ひとまず、ホッとひと安心。

 鳩は、その後も、よくうちの庭に戻ってきているようである。そして、少しずつ、飛ぶ距離をのばしているとのこと。発達が遅かっただけ?なんらかの障害を抱えているの?いずれにしても、大事なのは、巣からでられなかった鳩が、今、自力で生きている、ということ。芯のある生命力を、思う。

 さて、人の生きる有様に目を向けると、その生涯において、道半ばでは、ホントに前に進んでいる?後戻りしていない?と、不安になることが、時にある。しかし、途中で休憩したり、振り返ったりすることが、必要な場合だってある。また、機が熟すまでに、時間がかかることも、たくさんあるだろう。飛躍するためには、エネルギーがいる。あきらめてしまわないでいるかぎり、いつだって、変化の可能性は、未来に開かれている。

 4月。草木や花々が、あちらこちらで、色鮮やかに、芽吹きはじめている、希望に満ちた春。そんな春の訪れとともに、ゆっくりと巣立っていく鳩。そやね。ぼちぼち、がんばっていきましょ。

(2008年4月)