スタッフエッセイ 2008年3月

バトンをつないで

窪田容子

 今年度は大学で、ライフサイクル論の講義を受け持った。人が社会の中で生まれ、育ち、老いゆく過程において、どんなことが発達課題となり、どんな困難や危機があり、それをどのように乗り越えていくのかについて概説し、ワークなどを通じて考えてもらった。ライフサイクル論の知識を伝えるだけではなく、これから社会に出て行く学生たちに、これまでの人生を振り返り、これからどのように生きていくのかを考えて欲しかった。そして、自分とは異なる他者の人生にも目配りし、理解し、共に認め合っていけるようになって欲しいとも思っていた。

 レポートを読むと、特に思春期のテーマで自分の過去を振り返った学生が多かったようだ。20歳そこそこの学生にとって、思春期はほんの少し前に通ってきた道である。周りの目が異常に気になっていた、体や第二次性徴に関して深く悩んでいた、親との関係が悪かった、父母の仲を心配していた、期待が大きくしんどかった、自分のことが嫌いだった・・・など。酷いいじめ、仲間はずれ、親への反抗、問題行動、不登校などの経験を書いた学生もいる。思春期の心理的混乱の中で、わけも分からず振り回されてきたと感じてきた学生も多い。しかし、そこに思春期危機という名称があること、悩みや行動の有り様はそれぞれ異なるし、大なり小なりはあっても、多くの人が通り抜ける道であり必要な過程であることを知り、自らの体験を整理し意味づけることには大きな意味がある。

 深く悩んでいたことが平凡な悩みを持った思春期だったのだと思いほっとしたという学生、あれはPTSDやストレス反応だった気づいた学生、あの頃頑張っていたんだなと今振り返って思うと言う学生もいる。振り返る作業が、自分のアイデンティティの確立を助長したと書いた学生がいたが、人生、前へ前へと進んで行くばかりではなく、時に後ろを振り返り、意味づけることは、先に進むためにも大切な作業だ。

 成人期のテーマでは、3回にわけて職業、パートナーシップ、子育てを取り上げた。学生にとっては、近い将来に関わるテーマであるため、関心が高かったようだ。子育てをするときには、絶対に妻任せにしないで積極的に関わろうと思うと書いた男子学生が多くて嬉しかった。私自身の体験、職業選択の変遷、別姓結婚、妊娠、出産、子育てを通じて感じてきたことなども話した。

 学生たちが最終講義時に次のような感想を書いてくれた。
 深く悩み、苦しい経験をすることで、その後の生き方が変わり、良い方向に向かうことに気づけた。自分のことが嫌いだった私にとって良い影響があった。自分だけが特別とか、しんどいとか思わず、これからの人生を力強く生きていこうと思う。自分自身の生き方をどう選び、どう肯定していくのか、そして同時に他人についてどのように認め合っていくのかを学んだ。これから自分らしい、自分なりのライフスタイルを見つけてやっていく事を目指そうかなと思う。今の自分の気持ちがどういうもので、何に向かおうとしているのか、将来どうなりたいのかという考えが持てた。
 また、先生のライフスタイルを垣間見れるのがおもしろかった、体験談を聞くことが一番興味深かった、結婚子育てのところで先生が熱く語ってくれたことを忘れず役立てたい、などと書いてくれた学生がいた。

 そんな感想を読みながら、ふと、思い出したことがある。20代の初めの頃、行政主催の結婚前セミナーを受講した。四回程度の連続講座で、別姓結婚をしている人や、同性愛の人などが講師となり、自らの体験を話してくれた。どの話もとても興味深く、印象深いものだったし、結婚やパートナーシップについて考えさせられるものだった。誰が講師だったかは覚えてはいないが、その時の話が私のライフスタイルに影響を及ぼしていたことに改めて気づいた。そのとききっと、私は先輩女性たちからバトンを受け取っていたのだ。

 講師を務める機会はいろいろとあったが、これまで私は、あまり自分の体験を話してこなかった。自分の体験を話すことが、相手に役立つと思っていなかったのだと思う。私自身がその時々で、妥協することなく、自分の人生に向き合ってきたこと。それは自分らしく生きるためにしてきたことだ。しかし、そんな話を学生たちがしっかりと受け取ってくれたことで、自分がいつのまにか手渡せる小さなバトンを持っていたことに気づいた。そして、そのバトンは先輩女性から受け継いだものであることにも、気づかせてもらった。
 これからも、世代を超えて、バトンをつないでいきたい。

(2008年3月)