スタッフエッセイ 2008年3月

知らぬ間に・・・春

森葺a代

穏やかで暖かな日差しとともに桜の花がほころび始め、一気に春めいてきた。年度末でもあるこの時期、私の仕事は少し落ち着きはじめる。朝一番、心地よい肌寒さを感じながら、小さな春を探して歩くウォーキングの時間が増えるうれしい季節だ。

春。
昨年大きな夢を抱き、進学とともに家を出た娘。しかし、入学間もない頃から、「なんか、思ってたんと違う・・・」「こんな大学、4年間行って何になるんやろ?」と悩み、「何もやりたいことがない」と自分自身を見失いそうになったこともあった。何もしてやれない母は、この一年悶々としながらも苦しい胸のうちを聴いてやるしかなかった。
しかし先日、「レトロな家具を買った」とメールが来て、「建築とか家具とかに興味を持てたのは、この大学に来てのプラス面や ◎ 」と書いてあった。また、「すごい」と自画自賛の写メールには、雑穀ご飯と野菜とゴマたっぷりのヘルシースープ、メインの唐揚げの甘酢あんかけには、千切りキャベツが山盛り添えられている。自宅にいた頃は、料理の「りょ」の字、いやいや作り置いた食事を温めさえもしなかった娘が、教えたこともない料理を「母のマネ」といっては見よう見まねで作り、写メールで送ってくるようになった。最近は、健康のためとジョギングも始めたらしいし、「描きたいんやったら描いたらええのに、描かれへん・・・」と言ってた絵も描き始めた。ようやく今の環境を受け入れたのか、自分自身を取り戻し、前を向き歩き出したようだ。

春。
昨年公立高校受験に夢破れ、校則も厳しく、勉強一点張りの私学特進クラスに進学した息子。1年生から受験対策授業があり、部活をする時間もなく、春・夏休みも特別講習・・・。日夜企業戦士として長年働き続ける父でさえ、「僕はついていけません」と私に言ったほど。「こんな厳しいとは思わんかった・・・」「こんな面白ない学校、絶対誰にも勧めへんし・・・」と言い、帰宅後夕食も食べず気を失うように寝ている息子。日曜日には昼まで寝て、ゲームをして、テレビを見て過ごし、「これが一番の休息」と言う。そんな息子を見て、『多感な思春期これでいいのか?』と、これまた何もしてやれない母は悶々とした一年だった。
しかし、時には一日に7〜8人休んだ日もあったらしい中で、息子は一日も欠席することなく皆勤で一年を終えた。多くは語らない息子だが、さまざまな葛藤の中、挫折を乗り越え、友人と愚痴りあいながらも今の環境に身を置き、自分なりの物事の受け入れ方や自律を身に付けたのだろう。

知らぬ間に・・・春。
「踏まれても、踏まれても、たくましく立ち上がる」と言われる野の草花。彼らは知らぬ間に田畑の隅っこで、道端で、時にはコンクリートの隙間から芽を出し、雨水を吸い上げ、葉を広げ、小さな体に柔らかな日差しを受け取り、敏感に季節の移り変わりを察して、いつの間にか色とりどりの小さなかわいらしい花を咲かせている。
思えば我子も、それぞれの環境に身を置き、親の知らぬ間に自ら水を吸い上げ、日を浴び、葉を伸ばして一生懸命成長し、根を張るように人とつながり、精一杯生きようとしている。そして、いつしかそれぞれの春を迎え、個性的な花を咲かせるのだろう。暖かい日差しの中、野の草花を見ながら、子どもたちそれぞれのこの一年の成長に思いを馳せた。

(2008年3月)