スタッフエッセイ 2008年2月

受験生とのつきあい方

村本邦子

 二年続けて受験生をやってる息子。「受験生がいると気を遣うでしょ〜」と人から労われるが、ぜんぜん気を遣っていない私。

 その息子も、去年の今頃は、「なんかめまいがする」「心臓がドキドキする」などと身体症状を訴えたり、なんだかイライラピリピリしていたが、今年は、それほどのこともなく、「やっぱり大人になってきたな〜」と内心、感心していた。

 ところが、本番の受験が始まる前夜。家に帰ると、息子が、「晩御飯食べたら、みんなで温泉行こうや」と言う。びっくり仰天した私が思わず、「みんなで温泉なんか行ってる場合なん!?一分一秒惜しんで勉強した方がいいんと違う!?」と茶化して言ってしまったところ、息子が怒り出した。「どっちみち風呂に入るんやから、一緒のことやろ。それとも、風呂にも入らんと勉強せえって言うん!?」

 なっ、何なんや、これ・・・(個人的には、温泉行きたいんだけど・・・)。受験生のストレスか!? 内心、驚きながら(息子がこんなふうにわけわからない怒り方をするのは、思春期だった中学生の一時期を除くとめったにない)、「この子は、いったい何を考えてるんだ!?」と、こっちも腹が立ってくる。余裕のある子ならともかく、志望校にギリギリ届くか届かないかというところなのに・・・(四月からずっとよく頑張ってきたが、なにしろ生まれて初めてやる勉強だから要領を得ないのか、ずっと成果が上がらなかった。それが、年末あたりから急に成果が見えてきたので、本番に間に合うかどうかといったところ)。しかし、互いに怒りをエスカレートさせても良いことはないし・・・と大人の方がググッとこらえ、黙っておく。が、息子の方は、まだ畳み掛けてくる。八つ当たりやろ!?

 「お母さん、そうやって上から目線でものを言うのやめてくれる?」「えっ、上から目線でなんか言ってへんし・・・」「言ってる。まるで、あんた馬鹿じゃない!?って言われてみたいや」。心の中に思い当たるフシなく、そんなことはない・・・とは思うが、このシチュエーションにいる息子にはそう聞こえるのかしらと思うと、ちょっとかわいそうになる。納得できない部分は残るが、「そんなつもりはないけど、そう聞こえたら、ごめんなさい」とひとまず謝っておく。

 それでも、「いったいこの子は何を考えているんだろうか。私には理解できない」と考え続けるが、ふと、試験前日で不安と緊張が高く、家族と一緒に和気藹々と温泉にでも行って、あったかい気持ちに包まれて本番を迎えたいということだったんだろうかと思いつく。たぶんそうだったんだろう。そう考えると、急に、かわいく、そして、かわいそうな気持ちになる。やっぱり悪いこと言ったかな。

 「今、ご飯、食べる気分じゃない」と言うので、夫と二人、無言で食べ始めるが(夫の作ってくれたちゃんこ鍋)、そのうち娘が帰ってきた。「一緒にご飯、食べ」と言うと、息子も気を取り戻そうと努力してか、娘と食べ始める。場を察した娘が息子の笑いを取れる話題を提供し、夫と三人、仲良く笑いを取り戻す。輪からはずれていた私が、頃合いを見計らって、「じゃあ、そろそろ温泉行こうか〜」と誘うと、息子も大人らしく意地を張ることもなく、素直に「うん」と言う。こうして、受験前夜、一家で温泉へ行った。

 温泉効果がどんなふうに現れるのかよくわからないが、まっ、気分悪くて実力発揮できなかったと後々まで言われるよりは、気分よく試験を受けてもらう方が良いことは間違いない。基本的に、受験は自分のために自分でやることなんだから、受験生がいるからって、家族全員が腫れものに触るような扱いをするのには反対だが、それでも、やっぱり、ストレスフルな受験生のこと、ちょっとは気遣ってやらなきゃな・・・と反省した。さじ加減が難しい。さて、来年は、娘が受験生だ。

(2008年2月)