スタッフエッセイ 2007年10月

「虫」

長川歩美

 私は昔から虫がキライだ。「一番こわいものって何?」と尋ねられると、お化けでもなく、雷でもなく、迷わず「ゴキブリ!」っと答えていた。幼い頃より大阪市内のマンション育ちの私が出会う虫と言えば、せいぜい蚊やハエ、ちいさなクモや蛾くらいのもので、もっともおそろしいのは梅田や心斎橋などの繁華街を歩いていると、ささっと道を横切るゴキブリに出くわすことだった。

 それが、4年前に兵庫県の山のふもとに越してきて、ゴキブリとはタイプの違う、言うなれば自然にすむ虫達との関係?に悩まされるようになった。

 虫の悩み:その1.野菜に虫がついている。都会の野菜には見なかったような虫・・カリフラワーのモコモコに隠れたソーダ色の小さな虫、キャベツや枝豆の中の元気な芋虫、葉野菜の裏にもぐったゴマ粒のような虫・・はじめは躍起になって取り除いていたけれど、最近はそれほど神経質にならずに、「もしも気付かずに残っていたとしても、しっかり熱を加えていたら大丈夫。タンパク源だ!」くらいに思えるようになった。

 虫の悩み:その2.小庭の虫・・バッタや蜂、ダンゴ虫やありんこ達、植物についた蓑虫など。これらの虫の何がこわいのか考えてみると、「顔に飛んでくるかも」「知らないうちに頭に付いたり、袖や襟元から服に入ってしまうかも」。これには、ビニール手袋+通販で買った「胸元まで防虫立体ネットのついた帽子」で対応できるようになった。

 虫の悩み:その3.家から車で30分山に入ったところにある、勤務先の学校の相談室に、大きなカメムシが出没すること。長さ2センチ幅1センチ強ほどもあって、5ミリ四方程度の大きさの大阪のカメムシとは比べ物にならない。寒い季節になると、どんなに窓を閉めていても、どこからともなくひょっこり入ってくる。よって冬のその相談部屋には常に5匹ほどの巨大カメムシがうろうろしていて、天井からポトンと落ちてきたり、ふと気がつくと椅子の上を歩いていたり、壁を這っていたりする。虫ギライの私にはありえない職場環境なのだ。

 1年目は新入りということで、いろんな先生方を捕まえては駆除していただいていた。2年目はさすがに甘えられず、窓枠の隙間にティシュを詰めて、それでもどこからか入ってきたカメムシは、必死の思いで画用紙やちりとりの上に誘導し、急いで窓から捨てていた。さて、今年は・・そろそろカメムシの季節がやってくる。
 相談室の窓枠にびっしりティッシュを詰めるのも考えものだ(笑)。

 山の近くに引っ越してきたせいか、自然との一体感を大事に生活したいと年々思うようになってきた。ふと考えると、植物や小鳥、蝶やトンボとは生活できるのに、蜂やバッタ、カメムシとはなぜ共生できないんだろう?こんなにこわがるのはおかしい、矛盾してるような気がする。・・「刺す」「跳ねる」「臭い」と特徴があるからかな・・いやいやダンゴ虫は完全に見た目じゃないか・・など、考えなくてよさそう(笑)なことを考えるようになった。別に嫌なものは嫌でいいじゃないかと思うのだけれど、なんだか虫がこわいというのは自分の勝手な思い込みなんじゃないかとも思えるというか。

 思えば、子どものころは虫なんて気にせず一日中遊んでいた。クローバー畑で四つ葉のクローバーを探したり、レンゲ畑で花の蜜をおやつ代わりに冠をつくったり。ザリガニを探して田んぼ横の水路に入って、足にヒルをくっつけながらゲンゴロウを捕まえたりもしてたっけ。釣りのえさの土に入ったミミズを水で洗って泳がせて兄に怒られたこともあった。今よりずっと、構えずに虫と遊んでいた気がする。

 何年か前に、数年間仕事を共にした同僚で、道に落ちてバタバタしながらビービー泣いているアブラ蝉をそっと捕まえて、木の枝に戻してあげる人がいた。なんにもしない蝉をこわがってよけている自分に比して、その同僚の蝉への対し方がカッコいいというか、とても自然に思えたのを覚えている。

 カメムシは、刺激を与えると臭いガスを振りまくので駆除するのにドキドキ感があったのだが、最近では吹きかけるとフリーズして動かなくなるスプレーなるものがあるらしい。フリーズスプレーに一端の興味はありつつも、できれば元同僚のように、カメムシを刺激することなく手に乗せて窓から放つ、なんてことができたらいいな。そうなるまでに、幾度となくカメムシくさ〜い手で仕事をすることになりそうだけれど。

(2007年10月)