スタッフエッセイ 2007年7月

タロウ

森葺a代

 「太郎のおとうさんって中国に単身赴任してるん?って、メール来たけど。え〜?そんなこと言うたことないのに、何で知ってるんやろ?」と、息子が不思議そうに独り言をつぶやいた。そして、「おかしいな?」と私に言うので、考えた。

 そういえば、今日、息子の担任の先生に懇談の日程変更をお願いしたとき、夫のことを少し話したが、それが漏れ聞こえていたのだろうか???う〜ん、確かに、話した覚えのない我が家の情報が、どこから漏れたのかは気になるところだが、そんなことより、もっともっと気になったのは、この「太郎」だ。「タロウってだれ?」

 「タロウってだれのこと?」と聞くと、「え?あ、オレのこと」。え〜!!!高校に入学して一学期が終わり、今まで先生や友達のことなど結構話してくれていたのに、学校でそんな風に呼ばれているとは初耳だ。「え?タロウって呼ばれてるん?」「うん、親しみをこめてそう呼んでくれてるねん」と言う。

 聞くところによると、入学当初、お互いなんと呼び合おうか考えたらしい。苗字の「森浮ュん」「森普vではちょっと硬いし、名前で呼ぶってのもまだ何だかしっくり来ない。それで、「タロウ」となったらしい(笑)。何だかよくわからないが、なんの脈絡もない呼び方ではあるが、彼らなりの親しみを込めて付けてくれた「愛称」なので、違和感がないんだって。

 因みに娘は、高校時代名前で呼ばれたり、森浮ウんから文字って「もっさん」、色白でお餅のようだからと「もち(ちゃん)」、頼りになるからと「ネエさん」、いつもぽんとそこにいるからと「ぽんちゃん」など、ひとつのクラスの中で、いろんな呼ばれ方をしていたようだ。「愛称」って面白い。

 私自身は、小さい頃には親や近所の人、友達みんなから「かずよちゃん」と呼ばれていた。しかし中学生になった時、「辻さん」は「つうこ」と呼ばれ、「なえみちゃん」は「なっこちゃん」と呼ばれていてかわいいなと思い、私も、ただ名前に「ちゃん」を付けただけではない、素敵な「愛称」をつけてもらいたいと期待し、紆余曲折あったことを思い出した。

 「愛称」のつけ方は様々だが、昔から基本形らしきものはあって、苗字のはじめに「お」を付けるというものがある。例えば、「よしかわ」は「およし」、「由紀さん」は「おゆき」など。しかし、私の旧姓は「にしかわ」で「おにし」って変やなぁ、「おかず」はもっと変やということになり、なぜか「たにし」と呼ばれることになったのだ!!!かわいい呼び名を期待していたのに、何の因果で、「たにし」と呼ばれなければならないのか。しばらくこう呼ぶ友達もいたが、もぉ〜、この呼び名がイヤでイヤで、絶対イヤだといい張った。

 また、「なかのさん」は「なっかん」、「おかもとくん」は「おっかん」など、ちょっと詰まって最後に「ん」をつける呼び方もあって、それでも良いかと思ったものの、「にっしん」もイマイチで・・・。いろいろ考えた挙句、仕方なく「素敵な愛称」はあきらめたのだった。

 周りを見渡せば、「あおき」は、「あっおん」ってなんかおかしいということで、青ではなく赤に変身、本人も気に入り「あっかん」と呼ばれ、「小平」は読み方を変えて「こっぺ(い)さん」。苗字から連想したものでは、「いなば」は「うさやん」、「おおひら」は「ひらめ」。国語の時間に、ナ行と言うのをうっかり言い間違えて、ネ行と言ってしまい、今でも「ねぎょう」と呼ばれている子もいて歴史を感じる(笑)。また、昔から「山中」には「小太郎」、「ひさこ」には「チャコ」と定番化された呼び名があり、この素敵な「愛称」を、生まれたときから、努力することなく持っている友達がとっても羨やましかった。

 そして、結局私は、幼なじみの子達が呼ぶ「かずよちゃん」が簡略化して「かーちゃん」に定着したのだった。がっかりしながらも、「たにし」よりいいか、と内心ホッとしたことも覚えている(笑)

 先生の呼び名にもユニークなものがあった。理科の先生で、「・・・・になってまいます」という表現をよくする先生がいて、「マイマス」と呼ばれていたし、いつも辞書を小脇に抱え廊下を歩く英語の先生は、ディクショナリーを文字って「ディック」。名前からは、「一久(かずひさ)先生」は「いっきゅうさん」、「ジンさん」、「みよこちゃん」、と友達のように先生を呼んでいたことも懐かしい。

 あ!これらは決して、先生本人に対して、直接そう呼ぶわけではなく、その先生の話をするときにだけ、友達同士で使っていた、あくまでも親愛の情を込めた「愛称」で、ちゃんと敬意と礼儀はわきまえていた(笑)。

 こうしてみると、もっともっとユニークなものもあったと思う。しかし、「愛称」は覚えているのに、本名はなかなか思い出せないものだ。なんだか、息子の愛称「タロウ」という思いがけないきっかけで、久しぶりにひとりで同窓会に迷い込んだような、懐かしいセピア色の気分になった。

(2007年7月)