スタッフエッセイ 2006年9月

ミュージカル

前村よう子

 幼い頃から歌うことが好きだった。風呂を炊く燃料さえ買えない生活だったのに、新しい物好きの父は、レコードプレーヤー(昭和40年代に出回っていた、EP盤しかかけられないポータブルタイプ)を持っていて、いつも何かの曲をかけてくれていた。クラシックなどという高尚なものではなく、「こんにちわ赤ちゃん」とか「柔」「リンゴの唄」といった歌謡曲と雑誌の付録に付いていた童謡のソノシートばかりだったが。そのせいか、私は物心ついた頃から音楽がかかったら、一緒に歌い出す子どもだったらしい。

 白黒テレビが我が家にやってきたのは、3つ下の弟が生まれた頃だった。レコードをわざわざかけなくても、常に何かの音楽が流れているのが私のお気に入りだったようで、CMの曲から番組のテーマ曲から、全部音に合わせて歌い踊っていたらしい。その中で特に気に入っていた曲が、NHKの「受信相談」という番組の曲だ。「4時5分、4時5分、楽しくテレビを見る為に、楽しくラジオを聞く為に、覚えておけば便利です。・・・」、毎日4時5分にこの曲がテレビから流れると、一緒に歌って踊っていたのを覚えている。(他にも「パルナス」「カステラの文明堂」「今日の料理」等々)。

 こうしてテレビの登場と共に、歌うことだけでなく、踊ることも大好きになった。そんな頃(幼稚園)、母方の叔母が神戸まで映画を見に連れて行ってくれた。これが映画「チキチキバンバン」との出会いだった。生まれて初めて映画館で見た洋画であり、生まれて初めて見たミュージカルだった。内容はほとんど覚えていないが、歌は覚えている。大好きだった。お風呂でも、トイレでも、「チキバンバン、チキチキバンバン・・」と歌って踊っていた。その体験から今日に至るまで、ミュージカルと銘打ったものに限らず、音楽と踊りを融合したものであれば、何でも大人しく見たり聞いたりできなくなってしまった。ついつい一緒に歌って踊りたくなってしまう。身体中が音に反応するのだ。

 このように、ミュージカルを観劇するのは、私にとってとても楽しい経験だ。けれど、ミュージカルで描かれるのは、楽しいことばかりではない。辛い現実、哀しい体験、苦い思い等も描かれる。最近見た作品は、「レント」と「ウィケッド」。いずれも考えさせられる内容だった。前者の主題には、エイズや薬物依存が含まれ、主人公たちがその中で出会いと別れを繰り返していく。後者は、「オズの魔法使い」の前段階の話で、西の悪い魔女と北の良い魔女の友情が主題となっている。たまたまUSJで、この作品の縮小版を見ただけなのだが、なぜ、西の魔女が悪い魔女になってしまったのかを描いた部分で、何度も泣きそうになった。

 この冬、オフ・ブロードウェイ盤の「レント」を観劇する予定だ。同じものを観たとしても、舞台は生き物、また違った感銘を受けることだろう。その時、私が何を思い、考えるのか、今から楽しみだ。

 

(2006年9月)