スタッフエッセイ 2006年5月

日曜日の晩餐

下地久美子

 料理は好きなほうだが、毎日となると休みがほしくなる。そこで、日曜日の夕食は、夫と16歳の長男に、交代で作ってもらうことになった。夫も長男も料理好きなので、嬉々として作ってくれるのはありがたい。
 
 夫は、どうせ作るなら、普通にやるのは面白くないと言って、実験的な料理が並ぶ。発想豊かと言えばそうなのだけど、ギョッとする料理も少なくない。最近の自信作は、「パン餃子」。これは、サンドイッチ用のパンを麺棒で薄く延ばして、餃子の具を包んで、ホットプレートで焼いたもの。恐る恐る食べたら、意外に美味しかった。驚愕のレシピは、「かす汁カレー」で、残り物のかす汁とカレーをドッキングした摩訶不思議なカレー。かす汁もカレーも好きだけど、わざわざ混ぜ合わせなくっても・・・。これは食べる勇気がなくて、辞退した。他にも、きゅうりのスープとか、塩鯖チャーハンとか、風変わりなメニューが多く、夫の当番の日は、どんな料理が飛び出すか、スリルがあり過ぎるのが難点だ。
 
 一方、長男は、本格派。料理本どおりに計量スプーンできっちり測って作るので、アバウトな私の料理よりもよほど美味しかったりする。ピーナッツバターを使ったジャージャー麺やデミグラスソースのたっぷりかかったふわとろオムライスは大ヒットだった。みんなが絶賛するから、ますますやる気を出していて、最近は、自分でレシピ・ノートを作って、せっせと書き込むほどのハマりようだ。中華鍋や包丁も新調し、めきめき腕を上げていて、いっそ毎晩、作ってくれてもいいんだけどと、期待している。
 
 日曜日の夜に、家族で食卓を囲めるのは、幸せなことだと思う。2年ほど前、長男は、ひどい反抗期で、夜になると友だちと遊びに出かけてしまい、家族そろって食事をするなど、めったにないような状態の日々が続いた。顔を合わせば、言い争いになるし、いったいどこでどう間違ってこんなことになってしまったのかわからず、夫も、私も、次男も、暗くなってしまった。4人がけのテーブルに、ぽっかりあいた長男の席。一番辛かったのは、この状態がいつまで続くのかがわからないという、先の見えなさだったような気がする。
 
 そんな時期が1年ほど続いたあと、だんだんと長男は変わってきた。夜、出かけることはなくなり、再び一緒に夕食をとることが日常的な光景になった。それも、どういう心境の変化があったのかよくわからない。
 この先も、就職や結婚で、息子たちは家を離れ、食卓につく顔ぶれは変わっていくだろう。だから、美味しいねと笑い合える、日曜日の夕食の時間は大切にしたいなと思う。たいしたご馳走が並ばなくても、家族が揃うだけで、「日曜日の晩餐」だ。
 
 「晩餐」つづきでもうひとつ。先日の夕食のとき、『ダ・ヴィンチ・コード』の話題になった。「映画に出てくるレオナルド・ダ・ヴィンチの有名な作品はなんでしょう?」と、私が聞くと、次男が「モナリザ」という答え。「もう1枚有名な絵が出てくるよね?」という問いに、長男が自信たっぷりに「わかった。最後の〜、最後の晩しゃくや!」と答えたのには、みんな大笑い。壮大な芸術作品も台無しだ。料理の研究もいいけど、一般教養も身につけてほしいなと、ガッカリするやら、可笑しいやら。ま、笑いも食卓のスパイスということでいいかな。

(2006年5月)