スタッフエッセイ 2006年2月

少女マンガへの誘い

下地久美子

 私の青春時代は、少女マンガと共にあったといってもいいほど、昔はマンガばっかり読んでいた。中高が女子校で、恋愛と全く縁のない生活を送っていたから、マンガの世界で擬似恋愛するのが唯一の楽しみだった。内容は忘れてしまったが、くらもちふさこが好きで、「おしゃべり階段」とか「いつもポケットにショパン」とか、夢中になって読んだ。いつしか、現実の世界が忙しくなり、マンガの世界はすっかり遠のいていた。

 中学でスクールカウンセラーをするようになってから、再びマンガを読むようになった。中学生との会話で多いのが、マンガの話。マンガを読まなきゃ、彼女たちの世界についていけないなと、手にとってみた。最初に読んだのは、ある生徒に勧められた「ライフ」というマンガ。ひどいいじめに遭って、リストカットするようになった女子高校生が、次々と凄惨な事件に巻き込まれていく話だが、怖いもの見たさで引きつけられていく。それにしても、リストカットが、マンガのテーマに選ばれる時代なのだと驚く。今の女の子たちは、表面は明るくしていても、内面は不安を抱えている子が多いような気がする。しんみりした話をすると、「陰キャラ」と言われるらしい。そのせいか、痛々しいほど無邪気を装って、暗い自分を出すはけ口がないのかもしれない。それで、マンガの中に、自分に似たキャラクターを見つけて、共感したり安心したりするのだろう。

 次に読んだのが、2300万部も売れて社会現象になった「NANA」。ナナ(大崎ナナ)とハチ(小松奈々)という同じ名前だけど、性格も環境も対照的な二人が東京行きの電車の中で出会うことから物語ははじまる。やがて、ナナはCDデビューし、ハチは数々の恋愛の末、憧れのミュージシャンと結婚するが・・・。「NANA」は、登場人物も多いし、ストーリーも複雑で、面白い。心理描写が丁寧に描かれているので、ついつい感情移入してしまい、寝る間も惜しんで、あっという間に14巻読んでしまった。

 そして、いまハマっているのが、「ハチミツとクローバー」と「のだめカンタービレ」。「ハチクロ」は、ビンボー美大生の青春群像マンガで、ちょっとせつない物語。「のだめ」は、風変わりな音大生が主人公の笑えて感動できるクラシック音楽マンガだ。マンガのいいところは、現実も年齢も忘れて、すっと別の世界へ連れて行ってくれるところだろうか。主人公と一緒に泣いたり笑ったりするうちに、少女の頃の胸がキュンとする気持ちを思い出し、意外に私にもピュアな心が残っていたんだと気づかせてくれる。

 昔のマンガと今のマンガのちがいは、時代の変化と共に、描かれるヒロイン像が、ずいぶん変わってきたことだろう。昔は、ちょっとドジな女の子が、美人な女の子に意地悪されながらも、最後には、カッコいい男の子とハッピーエンドになるというワンパターンのマンガが主流だった。それが、今では大崎ナナのように家庭環境が複雑でトラウマをもって大人になった女性もいれば、のだめのように才能はあるけど部屋はゴミだらけという破天荒キャラあり、「ハチクロ」のはぐちゃんのような天然系ありと、バラエティ豊か。それだけ女性の生き方が、ここ20年ほどで大きく変わってきているということだろう。マンガは、そんな時代の空気をうまく切り取っていて、だからこそ多くの共感を呼ぶのだと思う。

 自閉症の子どもをもつ家族を取りあげた「光とともに・・・」も、専門書に引けをとらないほどの情報量だし、揺れる親の気持ちが上手く表現されていて勉強になる。原爆をテーマにした話題の「夕凪の街 桜の国」も、ぜひ読んでみたい作品だ。少女マンガ=恋愛という図式は崩れて、マンガはこれからますますテーマが広がっていくだろう。社会性を持った、大人も楽しめるマンガが増えていきそうだ。
 といっても、マンガはやっぱり勉強のために読むよりは、リラックスして読みたい。私にとって、マンガは、疲れたときの甘いケーキのようなもの。気晴らしになって、ちょっと幸せな気分にしてくれる。そんな存在かな。

(2006年2月)