スタッフエッセイ 2006年1月

寝た子を起こす、眠り好きな私

前村よう子

 4月の最初に「あなたの好きなことは何ですか?」という質問をすると、「眠ること」と答える生徒が、私の周りではここ数年増え続けている。「へぇ〜、眠るのが好きなんや」と言うと、「そうそう、せやから授業中に寝てたらごめんね」と返してくる。中には「せやから授業中に起こさないで」という強者もいる。さてさて、そういう生徒たちは、本当に眠るのが好きなのか、それとも授業中に眠ってしまうことを注意されないようにという予防線を張っているだけなのか。

 かくいう私は、眠ることが好きだ。通勤時、乗り換えも含めて1時間半近く電車に乗っているので、よほど読みたい本がある時以外は、そのほとんどの時間を眠ることに費やしている。乗車時間が一つの電車で15分くらいあれば十分に深く眠ることができる。俗に言う「爆睡」状態である。

 私の経験では、眠ることに適しているのは、ロマンスシート(2列ずつ1組になっているイス)ではなく、電車の窓際に長イスが張り付いている方だ。今冬のように寒い日が続くと、背中からの日差しが心地よく、まるで日向ぼっこをしているかのような幸せな気分にひたりながら眠ることができる。電車の振動、あの独特のリズムが私にとっては眠りへの誘いになっているのだろう。

 研究所の仕事として、滋賀県や京都府・兵庫県・和歌山県・三重県・岐阜県など、大阪府以外での講演に行くと、「遠い所から、大変だったでしょう?」と労って頂くことが少なくないが、私にとってはそれほど大変なことでもない。なぜなら、電車移動時間のほとんどを心地よい眠りに費やしているから。村本や津村など、研究所の他の人たちは、移動中、寸暇を惜しんで専門書を読んだり、パソコンに向かっていたりするのだが、私にはそれができない。推理小説を読んでいたとしても、最初の10分が限度。その後は、頭痛がして読めなくなるからだ。やはり私には、「爆睡」が向いているといえる。

 さて、いくら乗り物で眠ることが好きな私でも、いつかは起きなければならない。ごくたまに乗り過ごしてしまうこともあるので、「もうすぐ目的地に着くよ」というほど良いタイミングで起こしてくれる発明品があれば買うのになと、ふと思うことがある。このほど良いタイミングというのがミソなのである。

 私が研究所で得たことを教え子たちに授業の中で発信していくこと、これもこの「ほど良いタイミング」が大切だなと感じている。虐待やDV、性教育、どれを取っても「ほど良いタイミング」には気をつけている。同じ内容でも、どこの部分に焦点をあてるかによって、受け取り方は異なる。生徒たちとの距離が縮まってから、その時その生徒たちとの関係をふまえた上で、テーマも焦点も変えて伝えるようにしている。

 それでも「寝た子を起こしている」と批判される事もある。人生の中で、永らく「寝た子」で居続けた私は、もっと早く起きたかった、起こしてほしかったと感じていることが少なくない。だからこそ、前向きに「寝た子を起こし」続けていきたいと思っている。ただ、起こすタイミングや起こし方など、私自身がもっと向上せねばならない部分はあるだろう。眠り好きな私だからこそわかる、絶妙なタイミングを目指そう。

(2006年1月)