スタッフエッセイ 2005年12月

調査旅行

安田裕子

 ある調査をしている関係で、関東方面に出向く機会があった。調査日程の最終確認のお電話を差し上げた時に、調査にご協力いただく方から、「もしよければうちに泊まって下さい」という非常にありがたい申し出を受けた。初対面の方のご自宅に泊めていたくなんてご迷惑ではないのだろうか、失礼にあたらないだろうかという思いが脳裏をかすめたが、せっかくのお申し出である。そうした懸念よりも楽しみに思う気持ちの方が大きかったことも手伝って、既に駅前に予約していた宿をキャンセルし、お言葉に甘えて泊めていただくことにした。

 当日、まずは一旦東京まで出て、それからローカル特急列車に乗り換えて、一時間強程の土地である。最寄り駅まで自家用車でお迎えいただき、ご自宅までの道すがら、流域面積日本一を誇る利根川に連れて行っていただいた。今は丁度、鮭の遡上の時期である。残念ながら鮭の遡上を見ることはできなかったが、利根川の豊富な水量とその流れの勢いを直に眺め、鮭が利根川の流れに逆らって懸命に川を上っていく様子がまざまざと想像されたのだった。それにしても利根川の水量はものすごい。夏場であっても、渇水やら節水やらで困ることはほとんどないという。豊富な水量を確保しながら、なみなみと流れていくその様子は雄大ですらある。利根川はこの地域の人々の命の水となるのはもちろんのこと、首都圏(東京23区)に住む人々の生活用水にもなる。東京方面へと続く水路を見ながら、自然の恵みを感じた瞬間だった。私の住まいの近くにも、利根ほどの川幅はないにせよ川が流れているが、その川の流れを普段はさほど感じることもなく毎日を過ごしていることにフト気がついた。いつもと違った環境に身を置くと、普段は当たり前すぎて意識すらしていなかったものの存在が、改めて認識されることがある。そういう意味でも、新しい土地を訪れたり、そこで出会う人々と交流することは、本当に素敵なことだと思う。利根川を案内いただいたり、この地ならでは自然現象−この時期から春先まで続く、台風かと思うほどの強風「赤城おろし」など−についてのお話を伺ったり、地元で作っている米や野菜を材料にした美味しい夕ご飯をいただいたりと、とても楽しい調査旅行だった。

 今回のように、私は、ある調査をしている関係上、人の多様な経験や様々な考えに触れる機会に恵まれることがある。人から色々なお話をしていただくことにより、新たな知識を得ることができるのはもちろんのこと、他者の生き様を通じて自分自身のこれまでのことや今後の生き方、考え方などを振り返り顧みることができるのは、本当によい経験になっている。こうした発見や気づきは、私にとって調査の醍醐味である。実際に、私自身、人からお話いただいたことを自分の中で咀嚼し、自分の問題に援用し還元することを通じて、自分の混沌とした思いや悩みを整理したり、考えを深めたり先に進める貴重なきっかけを得てきた。調査に協力いただく方の人情の温かみに触れることも含めて、本当にありがたいことだなと思う。こうして受けた恩恵をいかにして返していくか。そこに自分自身の態度や、さらには生き方が問われるようにすら思う。お話を伺う機会に恵まれるたびに、心してやっていかなくてはいけないなと改めて痛感する今日このごろである。

(2005年12月)