スタッフエッセイ 2005年10月

「お手柔らかに・・・・」

津村 薫

お正月に飾る干し柿の意味を教わったのは、20歳くらいの頃だったろうか。両の外側に2つずつの干し柿。中側に6つの干し柿が竹の棒に吊るしてある。「夫婦仲睦まじく」という意味なのだそうだ。
「あなたたち(夫と私)は共白髪と出ている」と、四柱推命をするというおじさんに言われたことがある。私たち夫婦は共に白髪が生えるまで添い遂げる運命ということなのらしい。うん、そうあれるといいな。良いことは信じよう(笑)。

「読売レッツ」9月21日号に面白いアンケート結果が掲載されていた。「配偶者にたったひとつ望むことは?」と50〜70代の既婚者男性・女性に聞いた結果をまとめたものだ。男性も女性も1位は同じだった。「健康に気をつけて」。たったひとつなら、やはり健康でいて欲しいと私も願うだろうなあ。このところ「年齢には逆らえないね」という夫婦の会話が増えてきたし。

2位以下になると、くっきりと男女差が出る。面白いのは、男性側は、2位「かわいい妻でいて/いつも笑顔で」、3位「人生気楽にいこう」、4位「のんびりさせて」、5位「先に死なないで」と、あくまで理想を追い求めるが、妻は現実的な反応が多く、それも手厳しい。2位「思いやって/感謝の気持ちを」、3位「自分のことは自分でして」、4位「干渉しないで」、5位「私と向き合って」など。記述部分に「私の名前を覚えていますか?」と書いた妻がいるのだそうで、切実な叫びだと思う。

昨今では「夫在宅ストレス症候群」というのも有名だ。定年退職後、ずっと在宅し、三度の食事を当然のように要求したり、身の回りのことひとつ自分でしない夫がいれば、確かにイライラしてしまうだろう。仕事以外のことはすべて他者まかせにしてきたという夫が会社を去るとき、失うものは地位だけではないのかもしれない。定年後「ご苦労さま」といたわった妻に「うん」としか言わなかった夫。「お前もな」と一言あるだけでよかったのにと思う妻。この温度差、大きいよなあ。

妻側は「最後まで夫と添い遂げたい」「セカンドライフは夫と共に」派と、「もうこりごり。夫とは別に行動したい。もっと私を自由にして」「お互いの年金を折半して生活費を割り勘、家事も交代で」などのシビア派にくっきりと分かれる。この分かれ目は、前者がいたわりあい、愚痴なども話し合って支えあってきたという関係なのに対して、後者は夫側が「黙っていても自分の気持ちを理解して」とばかりに妻に期待するばかりで、妻の心情はまったく理解しようとしないという関係なのが興味深い。

かといって、夫婦の不仲が男性だけの問題だとは決して思わない。以前、読売新聞の人生相談で、定年を待たずに長年勤めた会社を早期退職し、人生の余暇を楽しむ夫のことを、「世間体が悪い。みっともないので働いてほしい。イライラする」と訴えた妻の相談があった。これではあまりに夫が気の毒かなという気持ちになったし、回答者は確か落合恵子氏だったと思うが、男性側に共感を寄せた回答をしていた記憶がある。そんなにも経済労働が尊く思えるなら、そしてイライラするなら、自分が夫と離れてパートに出るという選択肢もあるのだろうし、「早めにリタイヤして、のんびりと残りの人生を楽しみたいらしいのよ。長年頑張ってくれたんだから、楽をしてくれたらいいと思って」と周囲に言えば済むだけの話だとしか思えないので、それが恥という感覚も共感はできない。働け働けとお尻をたたかれ、定年後は厄介者扱いでは、男性も浮かばれないよなあと思う。

「妻のしんどさを夫が理解していない」と、子育てでも、その話はよく出るが、よくよく聞いてみると、「あれれ?」ということがあったりする。赤ちゃんを連れてお出かけの際、マザーズバッグにミルクだの、紙おむつだの、あれこれと支度する夫に「紙おむつの数が3つでは足りない」「あれも入れた?」「これも入れたの?」と妻が指図をするというもの。子育てに積極的に関わろうとしても、これでは夫は不快だろう。「よかれと思って・・・」と妻は言うが、それは「姑の論理」というもので、「わからないだろうから、親切に教えてあげてるんじゃないの」といわれても、誰だって愉快ではないはずなのに。いま、自分が抱えている苦痛は、実は自分がしている人間関係やコミュニケーションなのだとよくいわれる。このチェックを怠って、相手の欠点ばかりが目に付いて仕方がないというとき、私たちは「相手の気持ちも大切にする」というよく生きるための原則を忘れてしまっているのだろうなあ。

また、「日本人ほど、きちんと表現しないのに、“誰も私の気持ちをわかってくれない”と嘆く人種はいない」と言われるけれど、これも確かにそうだ。配偶者の思いやりのなさや無理解に悩みつつ、しかしそれを相手に伝えずに、恨みをためているという人は結構多い。「非主張か攻撃か(気持ちを言わないか、言うとしても相手への攻撃になる)」というコミュニケーションのパターンしか持ち合わせておらず、自分の気持ちを率直に伝えるという行為が簡単にはできないという人も本当に多い。

かといって、自分がそれをできているかといえば、多分できていない(笑)。来年で結婚20年、紆余曲折はいろいろとあったし、失敗も数多い。けれど、なかなか最近は居心地が良くなってきて、一緒に過ごすことが楽しくもある。そうなると夫も似たようなものらしく、滅多にない共通の休みの日を一緒に過ごすことを楽しみにしてくれていたりする。以前より、もっと仲良しになってきたかな。中年期の夫婦がうまくいくポイントは「オートミールをかきまぜることに価値を見い出す」ことだとイヴリン・バソフは言った。日常のささやかなことに意味を見い出す喜びを私たちが知り始めたということなのかもしれない。大層なことはなくても、ごくごく地味で平凡な会話に落ち着きや心地よさを感じられるなんて、私もトシをとったもんだなあ(笑)。せっかく一緒にいるのだから、関係にエネルギーを注いで、一生懸命(笑)仲良くしたいものだ。至らないなりに精進しますので、どうぞお手柔らかに(笑)。

(2005年10月)