スタッフエッセイ 2005年4月

秘密の世界

村本邦子

 鹿児島の洞窟で、中学生4人が死亡したと報じられた。子どもにとって、いや、大人にとっても、洞窟探検は魅力的だ。洞窟には、表からは見えない秘密の世界が隠されている。私が子どもの頃にも、通学路からほんの少しはずれた所に洞窟があった。今回の事件ほど入り組んだ洞窟ではなかったが、中にはまったく光が入らず、真っ暗闇になるので、片方の穴から入って、もう片方の穴から走って出てくるという肝試しをやっていた記憶がある。今回のニュースで初めて知ったが、本土戦に備え、防空壕の4割が鹿児島に掘られていたのだという。私が遊んでいた洞窟も、いつの頃からか柵が立てられ、いつの間にやら消えてしまったが、国中で、危険だからと組織立てた防空壕調査と穴埋めがあったということを、今回、初めて知った。
 洞窟とは別に、小学校の頃、何年もの間、秘密基地づくりに没頭していた時期がある。近所の山の茂みや竹藪の中に秘密の空間を作り出し、宝物やら何やらを持ち込んで、1日、そこで過ごしたものだ。人と話していたら、「基地ごっこは、ふつう、男の子の遊びで、女の子のは聞いたことないな」と言われたが、いつも私がリーダー格で、女の子の基地だった。いったい、どこから、そんな遊びを思いついて没頭することになったのか、自分でも不思議な気もするが、すでに独立心旺盛だった自分の子ども時代を愛おしく思う。そして、確かに、こういった遊びが私を育ててくれたのだ。
 事件となった洞窟も、大人たちは誰もその存在を知らなかったという。大人の知らない秘密の世界で、子どもたちは大切な時間を過ごすのだ。安全のため、僅かに残った洞窟は、これからも次々と埋められていくだろう。子どもたちの秘密の空間を埋め、奪ってしまう行為は、今の教育を象徴しているようで哀しい。かと言って、わが子が危険な遊びの中で命を落とすことを思えば、やはり、そんな危ないことはしないで欲しいというのが親の本音である。大人の目の届く表の世界のみに育つ子どもたちは、それでも彼らの洞窟をどこかに探し求めることだろう。ネットの世界は、子どもたちにとって、そんな秘密の穴蔵なのかも。まるでイタチごっこのようだ。
 私は、今でも洞窟が好きだ。鍾乳洞やケーブ・ダイビング(海の中の洞窟に入る)には心魅かれる。ひょっとして、FLCも一種の穴蔵なのかも・・・。光をあてれば、物事はよく見えるようになるけれど、あの世への通路は閉ざされてしまうだろう。闇の世界は、目に見えないものをたくさん感じさせ、世界の奥行きを教えてくれるものだ。安全とともに失うもののことにも思いを馳せたいと思うのだ。

(2005年4月)