スタッフエッセイ 2005年4月

桜咲く

安田裕子

 桜の季節である。あちらこちらから、そろそろ桜の便りが聞こえてくる頃だなと思っているうちに、外出先で思いがけずホーッとため息をもらしてしまう程に立派に咲きほこる光景に出くわしては、驚くばかりのここ数日間である。京阪神ではこの数日が桜の見頃だろう。冬の寒さに縮こまっていた状態から開放されるような感覚に、何とも言えない心地よさを覚えるこの春の季節が、私はとっても好きである。「ついにきたか…、花粉症!」と思わなくもないここ数年ではあるが、それでもやっぱり春がやってくると嬉しい。その春の到来を、桜の咲きほこる様が改めて教えてくれるのであり、何となくわくわくする季節である。
 ところで、我が家には犬がいる。その名前は「さくら」。2月の寒い時期に雪国で生まれ、そろそろ春の訪れが待ち遠しくなってきた3月のある日、遠路はるばる大阪の我が家にきてくれた。梅は咲けども桜はまだかいな、という時期だったが、名前をあれやこれやと考えていた時、不意に、つぼみを膨らませ花を咲かせる準備をしているであろう一本の桜の木が目に入り、「『さくら』ってどう?桜の咲く頃にうちにやってきたし、それがいい!」ということで、その瞬間に決まった名前である。それから以後8年数ヶ月、さくらはすっかり家族の一員として生活している。ただ最近心配なのは、年齢のせいもあるのだろうが、胃腸の具合が良くないこと。あんまりきれいな話ではないが、食べたものをしっかりお腹におさめておいてくれない(失礼!)のである。風邪引きらしいが、体が小さいし、歳も重ねているので、その容態の変調にはなかなか安心できない今日この頃である。
 さて、愛犬さくらのことに加えて、この春は我が家に良くも悪くも変化が多く、何かにつけて落ち着かない感じである。基本的には、私にとって春は喜ばしい季節なのだが、複数のことがおもちゃ箱をひっくり返したような状態になっていて(というのは多少大袈裟ではあるが)、ちょっと気分的に安定しにくいところがある。まあそれでも、色々な人の物の考え方を参考にしたり取り入れたりすることで、「なんとかなるかな」と思うところもあり、今できることを、ひとつひとつ片づけていくしかないなと思ったりもする。自分の考えを相対化できるような環境や人間関係は、ホントに心底ありがたい。
 と、何のことを言っているのかわからないような漠然としたお話で申し訳ないが、要するに、人生、不調な時期もあるわけで、何が良いかなんてわからない、ということである。立場を逆にすれば、いつ不具合に見舞われるかもわからない人生において、その人がもともと備えている力をエンパワーしていけるような支援って本当に大事!と改めて思ったりする。「禍福はあざなえる縄のごとし」「塞翁(さいおう)が馬」「雨降って地固まる」。今の状況に溺れてしまうことなく、先を展望できるような視点を与えてくれるこうした言葉を、私の七つ道具(?)の一つとして懐に収め、「逆境だって転換できるのよ!」ぐらいの余裕シャクシャクな態度を身につけたいなと思う。
 桜が咲く時期、色んなことが新しく始まる春だからこそ、穏やかな気分でばかりはいられないこともあるだろう。でも、そうこうしているうちに、新緑がまぶしく映えるような季節になり、さらには、また桜が咲く時期がやってくる。鬼が笑うかもしれないが。まあなんとかなるだろな。

(2005年4月)